(1)業績
(単位:百万円) |
|
前連結会計年度 (平成27年3月期) |
当連結会計年度 (平成28年3月期) |
増減額 (増減率) |
|
売上高 |
1,352,421 |
1,243,932 |
△108,488 |
(△8.0%) |
営業利益 |
47,988 |
9,427 |
△38,560 |
(△80.4%) |
経常利益 |
48,980 |
3,338 |
△45,642 |
(△93.2%) |
親会社株主に帰属する当期純利益又は 親会社株主に帰属する当期純損失(△) |
26,818 |
△51,499 |
△78,317 |
( - ) |
当連結会計年度(平成27年4月1日から平成28年3月31日まで)における世界経済は、一部に弱さが見られたものの、全体としては緩やかに回復しました。米国では個人消費や住宅投資の増加を背景に堅調な景気の回復を続けるなか、3月に開催された連邦準備制度理事会では政策金利の誘導目標水準を0.25%から0.50%の範囲で据え置くことが決定されました。欧州においてはギリシャ財政危機の課題が残るなか、新たに直面している難民問題などにより一部で弱さが見られたものの、欧州中央銀行による追加金融緩和に伴うユーロ安が進展し、景気は緩やかに回復しました。一方、過剰投資の削減、余剰設備の調整が進む中国経済は消費が堅調に増加したものの減速が鮮明化し、原油をはじめとする資源価格の大幅な下落によりロシアやブラジルなど資源国の経済は悪化し、アジア新興国の景気にも影響を与えました。
日本経済は、雇用・所得環境の改善により景気は緩やかな回復基調を続けましたが、日本銀行のマイナス金利付き量的・質的金融緩和の導入によりドル円為替相場は一時的に円安方向に推移したものの、その後は円高方向に推移し、日経平均株価も乱高下を続け不安定な動きを見せました。
海運業を取りまく事業環境は、燃料油価格の下落が進むなか、油槽船では原油価格下落に伴う備蓄及び輸送需要の拡大による市況の好転が見られたものの、コンテナ船では荷動きが低成長に留まり、新造大型船の相次ぐ就航と相まって船腹需給のギャップが広がり、運賃市況は低迷しました。ドライバルク船においても船腹過剰に中国の景気減速などを背景とする需要の減退が重なり、市況は過去最低の水準で推移しました。当社グループでは、配船効率化などの収支改善策への取組み、運航コストの削減に努めましたが、前期比で業績は悪化しました。
なお、為替レートと燃料油価格が経常利益に与えた影響は以下のとおりです。
|
前連結会計年度 |
当連結会計年度 |
増減額 |
影響額 |
為替レート |
¥109/US$ |
¥121/US$ |
¥12/US$安 |
89億円 |
燃料油価格 |
US$541/MT |
US$295/MT |
US$246/MT安 |
418億円 |
<為替の推移(¥/US$)> <消費燃料油単価の推移(US$/MT)>
以上の結果、当期の連結売上高は1兆2,439億32百万円(前期比1,084億88百万円の減少)、営業利益は94億27百万円(前期比385億60百万円の減少)、経常利益は33億38百万円(前期比456億42百万円の減少)、親会社株主に帰属する当期純損失は第4四半期連結会計期間に事業を取りまく環境が構造的な変化に直面するなか、ドライバルク事業部門において当社グループが運航する中・小型船を中心に船隊規模の縮小を一段と加速させ、市況へのエクスポージャーを低減するため構造改革を実施し、保有船の処分及び傭船の早期解約、減損損失等の特別損失等を計上したことにより、514億99百万円(前期は268億18百万円の親会社株主に帰属する当期純利益)となりました。
なお、当連結会計年度の事業セグメントごとの業績は、次のとおりです。
(単位:百万円)
|
前連結会計年度 (自 平成26年4月1日 至 平成27年3月31日) |
当連結会計年度 (自 平成27年4月1日 至 平成28年3月31日) |
増減額 (増減率) |
||
コンテナ船 |
売上高 |
677,428 |
614,908 |
△62,519 |
(△9.2%) |
セグメント損益 |
20,623 |
△10,049 |
△30,672 |
( - ) |
|
不定期専用船 |
売上高 |
600,687 |
567,617 |
△33,070 |
(△5.5%) |
セグメント損益 |
36,500 |
24,656 |
△11,844 |
(△32.5%) |
|
海洋資源開発 |
売上高 |
35,317 |
24,655 |
△10,661 |
(△30.2%) |
及び重量物船 |
セグメント損益 |
△5,670 |
△6,553 |
△883 |
( - ) |
その他 |
売上高 |
38,988 |
36,751 |
△2,236 |
(△5.7%) |
セグメント損益 |
3,023 |
1,826 |
△1,196 |
(△39.6%) |
① コンテナ船セグメント
[コンテナ船事業]
当期の積高は、北米航路では米国経済が底堅く推移したこともあり往復航全体で前期比約2%の増加となったものの、その他の航路では欧州経済の不透明感や中国経済の減速、資源安により需要が低迷し、減便や合理化を進めたこともあり欧州航路では約13%、アジア航路、南北航路でもそれぞれ約15%、約7%の減少となり、当社グループ全体の積高は前期比約5%の減少となりました。
運賃市況は、北米航路では第3四半期以降は需給バランスの悪化による下落が顕著となったほか、欧州及び南北航路でも低迷が続いたため、当社平均運賃も全航路で前年を下回る結果となりました。14,000 TEU型新造大型船5隻の竣工による競争力強化と同時に、需要減少に対応した欧州航路でのスペースの削減・減便や南北・アジア航路の合理化、空コンテナ回送費削減をはじめとする各種コスト削減にも引き続き取り組みましたが、前期比で減収となり損失を計上しました。
[物流事業]
内陸輸送及び倉庫業をはじめとする物流事業において、国内物流は陸送事業などにおいて堅調に推移しました。国際物流は、北米西岸の港湾混雑の解消及び中国経済減速の影響から日本を含むアジア発航空輸出貨物の取扱量が減少し、物流事業全体の業績は前期比で減収減益となりました。
以上の結果、コンテナ船セグメント全体では、前期比で減収となり損失を計上しました。
② 不定期専用船セグメント
[ドライバルク事業]
大型船においては、中国の鉄鋼需要停滞に伴い鉄鉱石輸入量が頭打ちとなるなか、冬季の荷動き増加の影響もほとんど見られず、市況は過去最低の水準で推移しました。中・小型船においても、中国向け石炭輸送が低迷したことや、南米出し穀物積みでの滞船緩和などを要因として船腹需給バランスが崩れ、市況は低迷しました。当社グループでは支配船処分によるフリー船の縮減を進めるとともに、運航コストの削減、効率的配船による収支の改善に努めましたが、長引くドライバルク市況低迷の影響を受けて前期比で減収となり、損失を計上しました。
[自動車船事業]
当期の完成車荷動きは、中国経済の減速を背景に欧州・北米出しのアジア向け貨物や、アジア出し中南米・アフリカなど資源国向け貨物が伸び悩み、ロシア経済の低迷により欧州域内の荷動きも減少した結果、大西洋域内貨物や、北米向け日本出し貨物などの増量が下支えしたものの、当社グループの総輸送台数は前期比で微減となりました。当社グループでは配船及び運航効率の改善に継続的に取り組みましたが、前期比で減収減益となりました。
[エネルギー資源輸送事業(液化天然ガス輸送船事業・油槽船事業)]
LNG船、大型原油船、LPG船は、中長期の期間傭船契約のもとで順調に稼働しました。また、油槽船事業全般において、市況は当期を通じて好調に推移しました。エネルギー資源輸送事業全体では、前期比で増収増益となりました。
[近海・内航事業]
近海船においては、市況は低水準で推移したものの、前年並みの輸送量を確保しました。内航船においては、不定期船輸送では専用船を中心に安定した稼働を維持し、定期船輸送では、大型船投入による営業展開により、前年を上回る輸送量となりました。近海・内航事業全体では、燃料油価格の下落に伴う燃料調整金等の減少の影響などがあり、前期比では減収増益となりました。
以上の結果、不定期専用船セグメント全体では、前期比で減収減益となりました。
③ 海洋資源開発及び重量物船セグメント
[海洋資源開発事業(エネルギー関連開発事業・オフショア支援船事業)]
ドリルシップ(海洋掘削船)は順調に稼働し、長期安定収益の確保に貢献しましたが、オフショア支援船事業においては、原油価格低迷に起因する海洋開発停滞により軟調な市況の影響を受けました。海洋資源開発事業全体では、前期比で減収となりましたが、オフショア支援船事業の海外子会社における外貨建て債務の為替評価損が縮小したこともあり、損失は縮小しました。
[重量物船事業]
重量物船事業においては、大型船によるオフショアプロジェクト関連の輸送・作業の減少及び全船型における市況の低迷により、前期比で減収となり損失が拡大しました。
以上の結果、海洋資源開発及び重量物船セグメント全体では、前期比で減収となり損失が拡大しました。
④ その他
その他には、船舶管理業、旅行代理店業、不動産賃貸・管理業等が含まれており、当期の業績は前期比で減収減益となりました。
(2)キャッシュ・フロー
当連結会計年度末における現金及び現金同等物は、前連結会計年度末より106億78百万円減少し1,987億45百万円となりました。各キャッシュ・フローの状況は次のとおりです。
営業活動によるキャッシュ・フローは、前連結会計年度より621億89百万円減少し396億35百万円の収入となりました。これは主に減価償却費483億2百万円や売上債権の減少129億33百万円によるものです。
投資活動によるキャッシュ・フローは、前連結会計年度より183億91百万円支出が増加し295億69百万円の支出となりました。これは主に、船舶設備を中心とした有形固定資産の取得による支出1,124億15百万円、同売却による収入910億70百万円によるものです。
財務活動によるキャッシュ・フローは、前連結会計年度より1,044億17百万円支出が減少し148億35百万円の支出となりました。これは主に、長期借入金の純減額149億30百万円によるものです。
当社グループは、海運業を中核とする海運事業グループであり、コンテナ船事業、不定期専用船事業、海洋資源開発及び重量物船事業を行っています。この他、船舶管理業・旅行代理店業及び不動産賃貸・管理業等のその他の事業を展開しています。従って、生産、受注を行っておらず、セグメントごとに生産規模及び受注規模を金額あるいは数量で示すことはしていません。
セグメント別売上高(外部顧客に対する売上高)
セグメント別売上高(外部顧客に対する売上高)の実績は、下記のとおりです。
セグメントの名称 |
自 平成26年4月1日 至 平成27年3月31日 |
自 平成27年4月1日 至 平成28年3月31日 |
||
金額(百万円) |
比率(%) |
金額(百万円) |
比率(%) |
|
コンテナ船 |
677,428 |
50.1 |
614,908 |
49.4 |
不定期専用船 |
600,687 |
44.4 |
567,617 |
45.6 |
海洋資源開発及び重量物船 |
35,317 |
2.6 |
24,655 |
2.0 |
その他 |
38,988 |
2.9 |
36,751 |
3.0 |
合計 |
1,352,421 |
100.0 |
1,243,932 |
100.0 |
当社(川崎汽船㈱)の営業収益実績(参考)
提出会社のセグメント別営業収益の実績は、下記のとおりです。
区分 |
自 平成26年4月1日 至 平成27年3月31日 |
自 平成27年4月1日 至 平成28年3月31日 |
||
金額(百万円) |
比率(%) |
金額(百万円) |
比率(%) |
|
(コンテナ船) |
(558,324) |
(52.6) |
(504,904) |
(51.1) |
(不定期専用船) |
(501,228) |
(47.3) |
(481,640) |
(48.8) |
(海洋資源開発及び重量物船) |
- |
- |
- |
- |
海運業収益 |
1,059,553 |
99.9 |
986,545 |
99.9 |
(その他) |
(677) |
(0.1) |
(567) |
(0.1) |
その他事業収益 |
677 |
0.1 |
567 |
0.1 |
合計 |
1,060,231 |
100.0 |
987,112 |
100.0 |
(1)中長期的な会社の経営戦略及び目標とする経営指標
当社グループは、平成27年3月に平成32年3月期を目標とする中期経営計画を発表致しましたが、昨年後半から急速に鮮明化している中国及び新興国を中心とする世界経済の成長鈍化、欧州における難民問題など地政学的リスクの高まりに伴う不透明感の増大を背景とした需要低成長懸念と、船腹供給圧力の継続という事業環境の構造的変化を踏まえて、平成28年4月に中期経営計画を見直し、新たな中期経営計画 「 Value for our Next Century – Action for Future -」を策定致しました。
この中期経営計画では以下の3つの重要テーマを掲げて、持続的成長と企業価値向上に向け取り組んでまいります。
① 財務体質の強化による「安定性」の確保と事業構造改革による「競争力」の確保
② 「安定性」を基盤とした「成長性」の強化
③ ステークホルダーとの対話と協働 (持続的成長と企業価値向上に向けて)
(2)会社の対処すべき課題
中期経営計画「 Value for our Next Century – Action for Future -」における重要テーマへの取組み詳細は以下です。
① 財務体質の強化による「安定性」の確保と事業構造改革による「競争力」の確保
中国の経済成長鈍化と構造改革の行方、資源価格低迷による新興/発展途上国の経済停滞、財政危機を抱える中での欧州における難民問題など地政学的リスクによる経済への影響など世界経済の先行き不透明感が強まるなか、物流輸送需要の低成長化・新造船供給過剰による船腹需給バランス回復の長期化が懸念されます。このような事業環境の下、当社は当面、「安定性」と「競争力」の確保を最重要課題として取り組み、具体的に以下の対応をとってまいります。
◆ ドライバルク事業(特に中・小型船エクスポージャー削減)を中心とした事業構造改革の実施
◆ 安定収益事業(自動車船・LNG船・油槽船・ドライバルク長期契約船・物流)の更なる安定的拡充
◆ コンテナ船事業の競争力確保(新造省エネ大型船・更なる東西航路への集中)の一層の計画推進による
安定収益化
◆ 関係会社を含む事業全体の構造改革による資産効率性の向上
② 「安定性」を基盤とした「成長性」の強化
上記のように、当面中期的な物流需要は緩慢な成長になる可能性がありますが、長期的には人口増加やエネルギー需要の拡大を背景として、継続的に成長するものと考えます。当社グループは、まず「安定性」と「競争力」の確保を基盤とした上で、リスクを低減した事業ポートフォリオの実現を通じて、安定性と成長性のバランスを重視した事業経営を行ってまいります。
具体的には、ドライバルク事業の構造改革を中心に平成27年度~平成31年度の5年間の投資計画を3,300億円から2,300億円とし、成長に向けた戦略的投資として、収益性と安定性を重視した上で中長期契約に基づくLNG船/油槽船船隊の拡大、アジア地域等でのターミナルを含む物流需要の取込みに合計950億円、ボラティリティへの耐性を高める安定収益拡充の取組みとして、14,000 TEU型大型コンテナ船(平成30年度までに合計10隻竣工)、7,500台積み自動車船(平成29年度までに合計10隻竣工)などに合計1,050億円を投資する計画としています。
③ ステークホルダーとの対話と協働(持続的成長と企業価値向上に向けて)
当社グループは、ステークホルダーとの対話と協働による持続的成長と企業価値の向上を重要な経営方針として掲げており、以下の取組みを進めています。
◆ 企業の社会的責任(CSR)遂行によるステークホルダーとの協働
CSR基本方針として、「事業活動の影響に対する配慮」、「新たな価値の創出」を定め、特に安全運航・環境保全・人材育成に取り組む方針としております。CSR推進組織としては、社会・環境委員会とその下部組織として環境専門委員会・CSR専門委員会を設け、グループ全体の取組みを進めるとともに、主体的な情報開示・発信を強化していくこととしています。
環境保全として、当社グループは事業活動が地球環境に負荷を与えることを自覚し、それを最小限にするべく、環境憲章にその決意を掲げ、これに基づく環境マネジメントシステムにより、具体的な環境保全活動並びに数値目標を定め、その達成状況を基に改善を図っていくなど、さまざまな取組みを行っています。例えば、省エネ型荷役機器導入や燃料節減によるCO2排出量削減、運航船のバラスト水管理のための処理装置の搭載、低硫黄燃料使用によるSOx排出量削減、NOx排出低減のための排ガス再循環装置搭載などの環境保全対策を実施しています。また、事業以外でも会社遊休地を利用した里山保全活動など環境保護活動を積極的に実施しています。
平成27年3月には、様々な環境問題に真正面から取り組むべく環境指針『“K”LINE 環境ビジョン2050』を策定し、持続可能な社会と美しい海を次の世代へと伝えるため、「CO2排出量の半減」、「新エネルギーへの転換」、「生態系保護」、「大気汚染防止」の4つを重要な取り組むべきテーマとして定めました。そして、今春これらの課題を解決するモデルとして計画された次世代環境フラッグシップ ”DRIVE GREEN HIGHWAY”が竣工しました。
特に「CO2排出量の半減」への取組みとして、国内外主要連結グループ会社の燃料消費や電気使用量などの環境負荷データを、環境データ集計システムを通じて収集・集計を行っています。平成27年において当社及び連結子会社の事業に伴う温室効果ガスの排出量は、スコープ1(化石燃料の使用に伴う直接的な排出)13,267,268トン、スコープ2(供給を受けた電力等による間接的な排出)30,561トン、スコープ3(スコープ1・2を除くその他の間接的排出)1,564,870トンという結果となりました。今後も、グループ全体の環境負荷を把握すると同時に、グループ各社での自主的な取組みを促し、必要に応じて追加施策を実施すべく、環境パフォーマンスの見える化に取り組んでまいります。さらに、年間の実績データは、第三者機関によるデータ精査と保証を受けた上で、社外へ開示しステークホルダーからの評価を次の施策に活かしながら、継続的な改善を図ってまいります。
◆ コーポレート・ガバナンスの強化
新たに定めた企業理念・ビジョンへの取組みを確実にし、持続的成長と企業価値向上に向けて、グループ内統治体制整備を含む、コーポレート・ガバナンスの強化を進めてまいります。リスクマネジメントでは、危機管理委員会とその下部組織(コンプライアンス委員会・安全運航推進委員会・経営リスク委員会・災害対策委員会)がグループのリスク管理にあたり、重要な投資については、投資委員会がその審議にあたる体制としています。
◆ 株主還元の方針
安定的配当方針は引き続き継続する計画ですが、平成27年度と平成28年度の構造改革の実施により、平成28年度の配当は未定とさせていただき、グループの「安定性」の確保に注力する方針です。その後、事業環境の構造的変化を見極め、当社グループの収益力を回復させた上で、当初の安定配当方針での株主還元を目指していく考えです。
コンプライアンスの徹底
当社は、公正取引委員会による立入検査を受けて以降、外部専門家の協力を得て、各種コンプライアンス強化策を策定・実施していますが、これらの強化策を今後もより一層推進することにより、再発の防止に努めてまいります。
当社グループは、国際的な事業展開を行っており、政治的・社会的な要因や自然現象により予期せぬ事象が発生した場合には、関連の地域や市場において事業に悪影響を及ぼす可能性があります。主たる事業である海上輸送の分野においては、荷動き・海運市況は、世界各国の景気動向、商品市況、船腹の需給バランス、競合関係など、様々な要因の影響を受け、その変化は当社グループの営業活動、経営成績に影響を及ぼす可能性があります。特に、わが国及び主要な貿易国(地域)である北米、欧州、中国等の税制、経済政策の変更、あるいは自国保護貿易政策などの発動は、国際間の輸送量の減少や運賃市況の下落を招き、当社グループの財政状態、経営成績に悪影響を与える可能性があります。
このほかに当社グループの事業活動において、悪影響を及ぼす可能性があると考えられる主なリスクには、次のようなものがあります。
① 為替レートの変動
当社グループの事業売上においては米ドル建て収入の比率が大きく、為替レートにより円換算後の価値が影響を受ける可能性があります。当社グループは、費用のドル化や為替予約などにより、為替レートの変動による悪影響を最小限に止める努力をしていますが、米ドルに対する円高は当社グループの財政状態、経営成績に悪影響を与える可能性があります。
② 燃料油価格の変動
燃料費は当社グループの船舶運航コストの中で大きなウェイトを占めています。燃料油価格は、原油の需給バランス、OPECや産油国の動向、産油国の政情や産油能力の変動など当社グループが関与できない要因により影響され、その予想は極めて困難といえます。また、環境規制の拡大・強化に伴い、環境負荷の低い良質な燃料の使用が求められ、結果として価格が割高な燃料を調達せざるを得ない可能性があります。当社グループは、不安定な価格変動の影響を回避するため一部先物取引による価格固定化を行っていますが、著しく、かつ持続的な燃料油価格の高騰は当社グループの事業コストを押し上げ、財政状態・経営成績に悪影響を与える可能性があります。
③ 金利の変動
当社グループは、継続的に船舶の建造等の設備投資を行っています。当社グループは可能な限り自己資金を投入しているほか、オフバランス化による有利子負債の削減を図っていますが、金融機関からの借入に依存する割合も少なくありません。また、事業運営に係わる運転資金調達を行っています。
資金調達に際しては、一定の規模を固定金利で借り入れ、また船舶・設備投資資金の借入の一部を対象とした金利固定化スワップを実施していますが、将来の金利動向によっては資金調達コストの上昇による影響を受け、当社グループの財政状態・経営成績に悪影響を与える可能性があります。
④ 公的規制
海運事業は、一般的に船舶の運航、登録、建造、環境保全に係わる様々な国際条約、各国・地域の事業許可や租税に係る法・規制による影響を受けます。今後、新たな法・規制が制定され、当社グループの事業展開を制限し、事業コストを増加させ、結果として当社グループの財政状態、経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。当社グループの運航船舶は、現行の法・規制に従い管理・運航され、かつ適正な船舶保険が付保されていますが、関連法・規制の変更が行われる可能性はあり、また新たな法・規制への対応に費用が発生する可能性があります。
当社グループは、自動車、車両系建設機械等の貨物の輸送に関するカルテルの可能性に関連して、欧州その他海外の競争法当局による調査の対象になっています。また、北米において当社グループを含む複数の事業者に対し本件に関する集団訴訟が提起されており、今後更に当社グループに対する他の民事訴訟が提起される可能性もあります。これらの調査及びこれに伴う一連の行政・刑事並びに民事上の手続がいつ完了するのか、また、その結果として当社グループが課徴金、制裁金、罰金、損害賠償その他の法的責任の対象になるか否かについての確定的な予測は現時点では困難ですが、その結果によっては、当社グループの事業または財政状態若しくは経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。
⑤ 重大な事故・環境破壊・紛争等
当社グループは、安全運航の徹底、環境保全を最優先課題として、当社グループの安全運航水準と危機管理体制の維持強化を図っています。
環境保全については、当社グループの事業活動が地球環境に負荷を与えることを自覚し、それを最小限にするべく、環境憲章を掲げています。環境憲章に沿って、環境への取組みを確実に推進するために、社長を委員長とする社会・環境委員会を設置して、推進体制の審議・策定をしています。また、平成27年3月には“K” LINE 環境ビジョン2050 『青い海を明日へつなぐ』を策定し、全社一丸となっての長期取組み方針を定めました。
安全運航については、社長を委員長とする安全運航推進委員会を定期的に開催し、安全運航に関わるすべての案件について、あらゆる視点に基づいた検討と取組みを行っています。更に緊急時の事故対応をまとめた「事故対応マニュアル」を策定し、定期的な事故対応演習により継続的改善を図っています。しかしながら、不測の事故、とりわけ油濁その他環境汚染に繋がる重大事故等が発生し、環境汚染を引き起こした場合、当社グループの財政状態、経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。また、海賊被害、政情不安・武力紛争地域での運航、船舶へのテロ行為リスクの増大は、当社グループの船舶に重大な損害を与え、また船員の生命を危険にさらすなど、当社グループ船舶の安全運航、航海計画管理、海上輸送事業全般に悪影響を与える可能性があります。
⑥ 競争環境等
当社グループは、国際的な海運市場の中で事業展開を行っており、有力な国内外の海運企業グループとの競合関係の中では、他企業との各事業分野への経営資源の配分の度合い及びコスト・技術面等の競争力の差によって、当社グループの業界での地位や経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。
競争環境の厳しいコンテナ船事業においては、他の海運企業とのアライアンスに参加することでサービスの競争力の維持・向上を図っていますが、一方で、アライアンスメンバーの一方的離脱など当社グループが関与し得ない事象は、当社グループの営業活動、財政状態、経営成績に悪影響を与える可能性があります。
⑦ 自然災害の発生
自然災害発生時の事業継続は、社会の機能の一端を担い社会に責任を負う当社グループの責務であるとともに、当社グループの存在意義に係わる重大な事項です。首都圏直下型大地震が発生した場合には、多くの建物、交通、ライフラインに甚大な影響が及ぶことが想定され、また強毒性新型インフルエンザが発生し世界的大流行(パンデミック)となった場合には、多くの人々の健康に重大な影響が及ぶことが懸念されています。また、これらの自然災害またはその二次災害に伴う風評被害が広がることが懸念されます。当社グループではこの2つの災害を想定した事業継続計画を策定し、自然災害の発生時には、この計画を適用または応用することで可能な限りの事業継続を目指していますが、当社グループ事業全般に対し少なからず悪影響を与える可能性があります。
⑧ 取引先の契約不履行
当社グループは、サービスを提供あるいは享受する取引先の選定においては、その信頼性を可能な限り調査していますが、将来において取引先の財政状態の悪化などにより、契約条項の一部または全部が履行不可能となる可能性があります。その結果、当社グループの財政状態、経営成績に悪影響を与える可能性があります。
⑨ 投資計画の未達成
当社グループは、船隊整備のために必要な投資を計画していますが、今後の海運市況や公的規制等の動向によって計画が想定どおりに進捗しない場合、造船契約を新造船の納入前に解約するなどにより、当社グループの財政状態、経営成績に悪影響を与える可能性があります。また、これらの新造船の納入時点において貨物輸送への需要が想定を下回る場合、当社グループの財政状態、経営成績に悪影響を与える可能性があります。
⑩ 船舶の売却等による損失
当社グループは、市況に応じた柔軟な船隊整備に努めていますが、実際の船腹需給バランスの悪化や船舶の技術革新による陳腐化に伴い、保有する船舶を売却し、また傭船する船舶の傭船契約を中途解約する場合があります。この結果、当社グループの財政状態、経営成績に悪影響を与える可能性があります。
⑪ 固定資産の減損損失
当社グループが保有する船舶等の固定資産について、収益性の低下により投資額の回収が見込めなくなる可能性があります。その結果、減損損失を認識するに至った場合には、当社グループの財政状態、経営成績に悪影響を与える可能性があります。また、当社グループは有価証券の評価基準及び評価方法として、投資有価証券のうちの時価のあるものについては期末日の市場価格等に基づく時価法を採用しています。その結果、株式市況の変動による時価の下落が当社グループの財政状態、経営成績に悪影響を与える可能性があります。
⑫ 繰延税金資産の取崩し
当社グループは、将来の課税所得の見積りに基づいて、繰延税金資産の回収可能性を評価しています。収益力の低下により充分な課税所得が将来確保されないとの判断に至った場合、繰延税金資産を取り崩して税金費用を計上することとなり、当社グループの財政状態、経営成績に悪影響を与える可能性があります。
なお、文中における将来に関する事項は、有価証券報告書提出日(平成28年6月24日)現在において当社グループが判断したものです。また、ここに記載するものが当社グループのすべてのリスクではありません。
特記事項はありません。
当社グループは、輸送技術の革新、安全輸送の徹底及び環境保全等に関する研究開発に取り組んでおり、他社と共同による船舶の省エネ化・環境対策に資する技術の高度化研究を通じ、省エネ・環境対策技術の保有を目指しています。
なお、当連結会計年度の研究開発費の総額は4百万円であり、特定のセグメントに帰属しない全社費用として、報告セグメントには含まれていません。
(1)当連結会計年度の経営成績の分析
① 売上高
売上高は前年度に比べ8.0%減収の1兆2,439億32百万円となりました。報告セグメント別では、需要の低迷、減便や合理化などによる積高の減少や運賃市況の低迷などにより、コンテナ船が前年度に比べ9.2%減収の6,149億8百万円となりました。
不定期専用船はドライバルク事業の市況低迷が継続し、自動車船事業では中国経済の減速を背景に欧州・北米出しのアジア向け貨物や、アジア出し中南米・アフリカなど資源国向け貨物が伸び悩み、ロシア経済の低迷により欧州域内の荷動きも減少しました。油槽船全般において運賃市況は好調に推移しましたが、前年度に比べ5.5%減収の5,676億17百万円となりました。
海洋資源開発及び重量物船はドリルシップ(海洋掘削船)は順調に稼働しましたが、オフショア支援船事業において原油価格低迷に起因する海洋開発停滞による軟調な市況の影響を受け、重量物船事業においても大型船によるオフショアプロジェクト関連の輸送・作業の減少及び全船型における市況の低迷などにより、前年度に比べ30.2%減収の246億55百万円となりました。
その他は前年度に比べ5.7%減収の367億51百万円となりました。
② 売上原価、販売費及び一般管理費
売上原価は、主に傭船料の下落、荷動き減少とそれに応じた減便等に伴う運航経費の減少により、前年度の1兆2,275億93百万円から676億4百万円減少し、1兆1,599億89百万円(前年度比5.5%減)となりましたが、売上高の減少を補いきれず、営業収入に対する売上原価の比率は2.5ポイント増加して93.3%となりました。販売費及び一般管理費はコスト削減を図った結果、23億23百万円(前年度比3.0%)減少し、745億15百万円となりました。
③ 営業利益
営業利益は、売上総利益の減少により前年度の479億88百万円に対して80.4%減益の94億27百万円となりました。
④ 営業外収益(費用)
受取利息・配当金から支払利息を差し引いた純額は、支払利息の減少により、31億17百万円の損失(前年度は61億4百万円)となり損失が縮小しました。また73億69百万円の為替差損(前年度は41億97百万円の為替差益)、35億87百万円の持分法による投資利益(前年度は21億80百万円)を計上しました。これらが主要因となり、営業外損益は60億88百万円の損失(前年度は9億92百万円の利益)となりました。
⑤ 税金等調整前当期純利益
固定資産の売却等により特別利益は175億47百万円となりました。また主に減損損失と傭船解約金により特別損失は521億65百万円となりました。営業利益の減少の影響と併せ、税金等調整前当期純損失は312億78百万円(前年度は486億32百万円の税金等調整前当期純利益)となりました。
⑥ 法人税等
法人税等は、繰延税金資産の取崩しを行いましたが、主として提出会社における税引前当期純損失の発生により、前年度の206億1百万円から17億91百万円減少し188億10百万円となりました。
⑦ 非支配株主に帰属する当期純利益
非支配株主に帰属する当期純利益は、INTERNATIONAL TRANSPORTATION SERVICE, INC.等の非支配株主に帰属する当期純利益が増加し、前年度の12億12百万円に対し、14億10百万円となりました。
⑧ 親会社株主に帰属する当期純利益
親会社株主に帰属する当期純利益は、前年度の268億18百万円の当期純利益に対し、514億99百万円の親会社株主に帰属する当期純損失となりました。1株当たり当期純利益は、前年度の28.60円の1株当たり当期純利益に対し、54.95円の1株当たり当期純損失となりました。
(2)資本の財源及び資金の流動性についての分析
① キャッシュ・フローの状況
「第2 事業の状況 1.業績等の概要 (2) キャッシュ・フロー」をご参照ください。
② 資金需要
当社グループの運転資金需要のうち主なものは、当社グループのコンテナ船事業や不定期専用船事業の運営に関わる海運業費用です。この中には港費・貨物費・燃料費などの運航費、船員費・船舶修繕費などの船費及び借船料などが含まれます。このほか物流事業やターミナル関連事業の運営に関わる労務費等の役務原価、各事業についての人件費・情報処理費用・その他物件費等の一般管理費があります。また、設備資金需要としては船舶投資や物流設備・ターミナル設備等への投資があります。当連結会計年度中に1,165億92百万円の設備投資を実施しました。
③ 財務政策
当社グループの事業維持・拡大を支える低コストで安定的な資金の確保を重視しています。長期の資金需要に対しては金融機関からの長期借入金を中心に、社債発行、新株発行により調達しています。短期的な運転資金を銀行借入、コマーシャル・ペーパー(CP)発行により調達し、一時的な余資は安定性・流動性の高い金融資産で運用しています。また、キャッシュマネージメントシステム等を利用して、国内・海外グループ会社の余剰資金を有効活用しています。
流動性の確保としまして、CP発行枠600億円、金融機関との当座貸越契約に基づき設定された借入極度枠470億円に加え、国内金融機関と300億円の複数年のコミットメントラインを設定し、緊急の資金需要に備えています。
当社は国内2社の格付機関から格付を取得しており、平成28年6月24日0時現在の発行体格付は、日本格付研究所(JCR)「BBB+」、格付投資情報センター(R&I)「BBB」となっています。また、短期債格付(CP格付)についてはJCR「J-2」、R&I「a-2」をそれぞれ取得しています。
(3)財政状態
当連結会計年度末の資産合計は、前年度末比1,081億4百万円減少し1兆1,152億23百万円となりました。流動資産は、受取手形及び営業未収金並びに原材料及び貯蔵品の減少等により、前年度末比410億38百万円減少し4,012億14百万円となりました。
固定資産は前年度末比670億65百万円減少し7,140億9百万円となりました。固定資産のうち有形固定資産は、主に船舶の減少により、前年度末比489億44百万円減少し5,835億52百万円となりました。投資その他の資産は、主に投資有価証券の減少により、前年度末比177億35百万円減少し1,262億56百万円となりました。
当連結会計年度末の負債合計は、前年度末比205億77百万円減少し7,353億9百万円となりました。流動負債は、短期借入金の減少等により、前年度末比153億25百万円減少し2,456億23百万円となりました。固定負債は、長期借入金の減少等により、前年度末比52億52百万円減少し4,896億86百万円となりました。
当連結会計年度末の純資産合計は、前年度末比875億26百万円減少し、3,799億13百万円となりました。純資産のうち株主資本は、主に利益剰余金が590億58百万円減少したことにより、3,305億41百万円となりました。その他の包括利益累計額は、為替換算調整勘定が125億12百万円減少したことを主な要因として、前年度末比270億76百万円減少し248億34百万円となりました。