第2 【事業の状況】

1 【業績等の概要】

(1) 業績

① 当連結会計年度の連結業績の概況

世界経済は、実体経済が好調な米国を中心に緩やかな成長が継続する一方、原油価格の低迷や、新興国・資源国経済の減速等により、総体的に勢いを欠く状況となっています。これらに加え、EUからの英国の離脱による国際金融市場の混乱や、保護主義的な政策の拡大懸念等、今後の実体経済の先行きに対する不透明感がより一層増しており、引き続き世界景気の下振れリスクには十分な注視が必要です。

国内経済は、外需環境の悪化や緩慢な個人消費等の影響を受け、足踏み状態が継続しています。今後は、所得・雇用環境の着実な改善により、総じて緩やかな成長が期待されますが、米国をはじめとする各国の経済政策や、中東地域・朝鮮半島等における地政学リスク等により急激かつ大幅に為替が変動する可能性もあることから、今後も為替相場に対しては十分な注視が必要です。

このような経営環境の中で、当連結会計年度における当社グループの連結受注高は、航空宇宙事業、船舶海洋事業、プラント・環境事業を中心に減少となりました。連結売上高については、プラント・環境事業や精密機械事業が増収となる一方で、円高の影響や前期に建設機械事業を譲渡したことなどにより、全体では前期並みとなりました。利益面については、船舶海洋事業の悪化や航空宇宙事業などの減益により営業利益、経常利益及び親会社株主に帰属する当期純利益はいずれも減益となりました。

この結果、当社グループの連結受注高は前期比3,449億円減少1兆3,487億円、連結売上高は前期比222億円減収1兆5,188億円、営業利益は前期比500億円減益459億円、経常利益は前期比565億円減益366億円、親会社株主に帰属する当期純利益は前期比198億円減益262億円となりました。また、ROIC※は5.0%、ROEは6.0%となりました。

 ※ROIC = EBIT(税引前利益 + 支払利息) ÷ 投下資本(有利子負債 + 自己資本)

 

当連結会計年度の連結セグメント別業績の概要は以下のとおりです。

 

② 当連結会計年度のセグメント別業績概要

船舶海洋事業

連結受注高は、新造船需要の低迷により、前期に比べ614億円減少369億円となりました。

連結売上高は、防衛省向け艦船の建造・修理に伴う工事量増加などにより、前期に比べ83億円増収1,032億円となりました。

営業損益は、ブラジルの現地合弁会社向け売掛債権への貸倒引当金の追加計上、円高及びコスト増に伴う受注工事損失引当金の繰入れ増などにより、前期に比べ134億円減益214億円の営業損失となりました。

 

車両事業

連結受注高は、海外向けが減少したものの、東京都交通局向けリニア式地下鉄車両を受注したことなどにより、前期に比べ264億円増加1,585億円となりました。

連結売上高は、台湾やシンガポールなどアジア向けが減少したことなどにより、前期に比べ94億円減収1,371億円となりました。

営業利益は、減収に伴う減益や高採算案件の減少、コスト増などにより、前期に比べ58億円減益34億円となりました。

 

航空宇宙事業

連結受注高は、防衛省向け固定翼哨戒機の一括受注があった前期に比べ、2,272億円減少2,370億円となりました。

連結売上高は、防衛省向けが増加したものの、円高の影響などにより、前期に比べ219億円減収3,299億円となりました。

営業利益は、円高の影響や民間航空機向け分担製造品の収益性低下などにより、前期に比べ206億円減益250億円となりました。

 

ガスタービン・機械事業

連結受注高は、水力機械、圧縮機などの減少に加え、航空エンジン分担製造品の新規参画プロジェクトを前期に一括受注したことなどにより、前期に比べ285億円減少2,603億円となりました。

連結売上高は、円高の影響はあったものの、航空エンジン分担製造品の増加やガスエンジン発電所にかかる工事量増加などにより、前期に比べ55億円増収2,419億円となりました。

営業利益は、円高の影響や航空エンジン分担製造品における新規プログラム開発費の償却負担増加などにより、前期に比べ16億円減益152億円となりました。

 

プラント・環境事業

連結受注高は、国内向けごみ焼却プラントの減少などにより、前期に比べ437億円減少950億円となりました。

連結売上高は、海外向け化学プラントの工事量増加などにより、前期に比べ252億円増収1,608億円となりました。

営業利益は、増収があったものの海外向けLNGタンクでの受注工事損失引当金の繰入れなどにより、前期に比べ59億円減益26億円となりました。

 

モーターサイクル&エンジン事業

連結売上高は、先進国向け二輪車や四輪車が増加したものの、円高の影響や汎用エンジン、新興国向け二輪車の減少などにより、前期に比べ205億円減収3,130億円となりました。

営業利益は、減収により前期に比べ40億円減益117億円となりました。

 

精密機械事業

連結受注高は、建設機械市場向け油圧機器や各種産業用ロボットの増加などにより、前期に比べ336億円増加1,668億円となりました。

連結売上高は、建設機械市場向け油圧機器や各種産業用ロボットの増加などにより、前期に比べ221億円増収1,552億円となりました。

営業利益は、増収により前期に比べ45億円増益131億円となりました。

 

その他事業

連結売上高は、建設機械事業があった前期に比べ314億円減収774億円となりました。

営業利益は、前期に比べ2億円増益31億円となりました。

 

(2) キャッシュ・フローの状況

当期末における現金及び現金同等物(以下「資金」)は前期比128億円増507億円となりました。当期における各キャッシュ・フローの状況とそれらの要因は、次のとおりです。

 

(営業活動によるキャッシュ・フロー)

営業活動の結果得られた資金は、前期比74億円増935億円となりました。収入の主な内訳は、税金等調整前当期純利益388億円、減価償却費515億円であり、支出の主な内訳は、法人税等の支払額131億円、売上債権の増加による支出646億円です。

 

(投資活動によるキャッシュ・フロー)

投資活動の結果支出した資金は、前期比93億円減648億円となりました。これは主に有形及び無形固定資産の取得によるものです。

 

(財務活動によるキャッシュ・フロー)

財務活動の結果支出した資金は、前期比75億円減158億円となりました。これは主に配当金の支払によるものです。

 

2 【生産、受注及び販売の状況】

(1) 生産実績

当連結会計年度における生産実績をセグメントごとに示すと、次のとおりである。

セグメントの名称

生産高(百万円)

前期比増減(%)

船舶海洋

110,704

+14.5

車両

116,418

△9.1

航空宇宙

290,655

△0.9

ガスタービン・機械

223,927

△0.8

プラント・環境

145,727

+17.6

モーターサイクル&エンジン

234,272

△3.8

精密機械

137,151

+17.2

その他

102,298

△19.7

合計

1,361,155

+0.3

 

(注) 1 上記金額には、消費税等は含まれていない。

2 金額は、生産高(製造原価)によっている。

 

(2) 受注実績

当連結会計年度における受注実績をセグメントごとに示すと、次のとおりである。

セグメントの名称

受注高(百万円)

前期比増減(%)

受注残高(百万円)

前期比増減(%)

船舶海洋

36,979

△62.4

191,604

△26.2

車両

158,597

+20.0

392,224

+4.3

航空宇宙

237,016

△48.9

508,759

△16.3

ガスタービン・機械

260,354

△9.8

394,977

+3.4

プラント・環境

95,012

△31.5

214,926

△16.0

モーターサイクル&エンジン

313,030

△6.1

精密機械

166,832

+25.2

37,912

+43.8

その他

80,948

△22.4

21,401

+19.8

合計

1,348,773

△20.3

1,761,806

△8.5

 

(注) 1 上記金額には、消費税等は含まれていない。

2 モーターサイクル&エンジン事業については、主として見込み生産を行っていることから、受注高について売上高と同額とし、受注残高を表示していない。

3 セグメント間の取引については、受注高及び受注残高から相殺消去している。

 

 

(3) 販売実績

当連結会計年度における販売実績をセグメントごとに示すと、次のとおりである。

セグメントの名称

販売高(百万円)

前期比増減(%)

船舶海洋

103,204

+8.7

車両

137,159

△6.4

航空宇宙

329,915

△6.2

ガスタービン・機械

241,953

+2.3

プラント・環境

160,877

+18.5

モーターサイクル&エンジン

313,030

△6.1

精密機械

155,278

+16.5

その他

77,410

△28.8

合計

1,518,830

△1.4

 

(注) 1 上記金額には、消費税等は含まれていない。

2 販売高は、外部顧客に対する売上高である。

3 最近2連結会計年度における主な相手先別の販売実績及び当該販売実績の総販売実績に対する割合

 

相手先

前連結会計年度

当連結会計年度

金額(百万円)

割合(%)

金額(百万円)

割合(%)

防衛省

227,333

14.8

236,861

15.5

民間航空機株式会社

159,683

10.4

 

(注) 当連結会計年度における民間航空機株式会社向けの販売実績及び総販売実績に対する割合は、当該割合が100分の10未満のため、記載を省略している。

 

3 【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

[会社の経営の基本方針]

当社グループは、カワサキグループ・ミッションステートメントにおいて、「世界の人々の豊かな生活と地球環境の未来に貢献する“Global Kawasaki”」をグループミッションとして掲げています。2016年3月には、「陸・海輸送システム、航空輸送システム、エネルギー環境、ロボメック(ROBO・MECH/産業機器から改称)の4分野を主な事業分野として、最先端の技術で新たな価値を創造し、顧客や社会の可能性を切り開く企業グループを目指す」ことをビジョンとして定めました。

また、「選択と集中」「質主量従」「リスクマネジメント」を指針とし、資本コストを上回る利益を安定的に創出するとともに、先端的な研究開発と革新的な設備投資を持続的に行い、将来に亘る企業価値の向上を図ること、すなわち「Kawasaki-ROIC経営(以下、ROIC経営)」の推進を経営の基本方針に掲げ、収益性・安定性・成長性を重視した事業ポートフォリオの構築に取り組んでいきます。

 

[目標とする経営指標]

目標とする経営指標は、利益(営業利益、経常利益、親会社株主に帰属する当期純利益)及び資本効率を測る指標である投下資本利益率(ROIC = EBIT(税引前利益 + 支払利息) ÷ 投下資本(有利子負債 + 自己資本))としています。

そして、当社グループが有する事業を細分化したビジネスユニット(以下、BU)毎にROIC管理を行い、ROICがハードルレート(最低限確保すべき水準)を下回るBUは、早期にハードルレートを上回るべく具体的施策を展開していきます。一方、既にROICがハードルレートを上回っているBUは業界トップクラスのROICの達成、又は経済的付加価値の増加に取り組むことにより、当社グループ全体の企業価値向上を図ることとしています。

これらの経営指標の改善の結果として自己資本利益率(ROE = 親会社株主に帰属する当期純利益 ÷ 自己資本)の向上も図っていきます。

 

[中長期的な会社の経営戦略・対処すべき課題]

1.ROIC経営(企業価値向上)の徹底

中期経営計画「中計2016」では、ROIC経営の深化を基本方針としています。成長分野(航空輸送、ロボット、エネルギー等)への投資を積極的に行うとともに、技術の結集によりシナジー効果を高めるのに加え、将来を見据えて技術・製品の差別化などにも取り組み、収益力の源泉や競争優位性を強化していきます。また、事業分野ごとにその特性を踏まえ、従業員の日々の業務との関連性を重視した指標を定め、企業価値向上に向けて全員参加型のROIC経営を進めていきます。

 

2.キャッシュ・フロー重視の経営

収益力の強化に加え、将来の成長に向けた開発や設備投資を着実に実行しつつ、フリー・キャッシュ・フローの創出を目指しています。特に、営業キャッシュ・フローの獲得を課題として掲げており、入金条件の改善や製品を納入するまでの期間・工程の短縮による資産圧縮など、運転資本の効率化に向けた具体的な施策を継続していきます。

 

3.プロジェクトにおけるリスク管理の強化

平成27・28年度(2015・2016年度)での多額の損失計上の反省を踏まえ、大型プロジェクトにおけるリスク管理を強化します。受注前のリスクチェック機能を強化し最大限にリスクを排除するだけでなく、プロジェクトリスク管理委員会を設置し、遂行中のプロジェクトの進捗状況把握を行い、損失発生の未然防止や状況変化の早期把握、迅速な対応に努めます。このようにリスク管理を強化しつつ、持続的成長のための挑戦を続けていきます。

 

 

4.情報通信技術の活用によるものづくり力強化・サービス事業の強化

情報通信技術を活用して生産状況の見える化を進め、将来的には工場間の連携を高度化してものづくり力を強化していきます。また、人工知能を活用したモーターサイクル、発電プラントなどにおける遠隔監視・故障診断技術等を開発し、拡大・多様化する顧客ニーズに応える製品・サービスを提供することにより、高収益体質を確立していきます。

 

5.コーポレートガバナンス体制の強化とエンゲージメントの重視

コーポレートガバナンス・コード及びスチュワードシップ・コードの趣旨を踏まえ、当社にふさわしいコーポレートガバナンス体制を継続的に検討していくとともに、資本市場との質の高い対話を継続していきます。

 

(注) 1「コーポレートガバナンス・コード」:企業が、株主・顧客・従業員・地域社会等の立場を踏まえ、透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を行う仕組みを整備するための原則  

2「スチュワードシップ・コード」:機関投資家が、対話を通じて企業の中長期的な成長を促すなど受託者責任を果たすための原則

 

6.働き方改革とダイバーシティの尊重

事務系・技術系社員を中心とした働き方改革「Kawasaki Workstyle Innovation活動(K-Win活動)」を開始し、従業員が豊かな感性を持ち、その能力を最大限に発揮することで、生産性を高めていきます。また、設立済みの特例子会社において障がい者が働きやすい職場と仕事を創出するとともに、女性の活躍推進をはじめとしたダイバーシティ(多様性)を尊重した職場環境の整備にも努めていきます。

 

なお、個別事業における課題については以下のとおりです。

 

① 船舶海洋事業

国内商船建造の坂出工場への集約及びガス関連船を主体とした選別受注、徹底した生産性向上活動によるコスト競争力の強化、南通中遠川崎船舶工程有限公司・大連中遠川崎船舶工程有限公司との共同購買・分担建造など一体運営の更なる深化、オフショア作業船の建造コストの改善

 

② 車両事業

最先端の技術開発・新型車両など、顧客ニーズに適合した技術・製品による競争力強化、人財育成によるシステムインテグレーション能力の更なる向上、メンテナンス・改造等のストック型ビジネスの拡大、海外生産・海外調達及びパートナーシップの活用などグローバルな最適事業遂行体制の構築

 

③ 航空宇宙事業

P-1固定翼哨戒機・C-2輸送機の修理・部品供給を含めた量産体制の確立及び派生型機への展開、ボーイング787分担製造品の増産への対応及び777Xの開発、量産立ち上げ

 

④ ガスタービン・機械事業

高効率の産業用ガスタービン・ガスエンジンをベースとしたエネルギーソリューション事業の展開、海外展開の推進、民間航空機用ジェットエンジンの新機種開発の推進及び増産対応

 

⑤ プラント・環境事業

既存製品の高度化による競争力強化と新製品・新技術の早期事業化、海外パートナーシップ強化による新興国・資源国を中心とした海外事業の拡大、人財育成強化によるエンジニアリング力の更なる向上及び大型プロジェクトの着実な完遂

 

⑥ モーターサイクル&エンジン事業

“Kawasaki”らしい魅力ある強いモデルの継続投入、顧客価値に根ざした高いブランドの実現、回復基調にある先進国市場での更なるプレゼンスの向上、新興国市場におけるブランド力の一層の強化及び新規市場開拓、連結ベースのマネジメントの徹底効率化

 

⑦ 精密機械事業

油圧機器のショベル分野における高シェアの維持・拡大とショベル以外の建設機械/農業機械分野向けの拡販、ロボット分野におけるシステム提案力強化と海外生産体制整備・拡大、医療ロボットなど将来へ向けた新規分野への継続的な取り組み

 

(注) 上記の将来に関する記述は、現時点で入手可能な情報に基づき判断したものであり、その達成を当社として約束する趣旨のものではありません。

 

4 【事業等のリスク】

有価証券報告書に記載した事業の状況、設備の状況、経理の状況のうち、当社グループの経営成績、株価及び財務状況等、投資者の判断に重要な影響を及ぼす可能性のあるリスクには以下のようなものがあります。なお、記載事項のうち将来に関する事項は当連結会計年度末(平成29年3月31日)現在において当社グループが判断したものです。

当社グループは、グローバルかつ持続的な事業運営を可能とする全社的リスク管理の取組みに必要な体制を整え、当社グループにおける重要リスクを以下のとおり認識した上で、リスク発生の回避及びリスクが顕在化した時の影響の極小化に努めています。

(1) 政治・経済情勢

当社グループは、日本国内はもとより米州・アジア・欧州をはじめ世界各地で事業展開をしており、それぞれの地域における政治・経済情勢の影響を受けます。

先進国の政治・経済の動向に加えて、原油をはじめとする資源価格の変動に伴う新興国の政治・経済の動向が、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。

 

(2) 為替レートの変動

当連結会計年度における当社グループの連結売上高に占める海外向け売上高は57%であり、米ドル、ユーロ等の外貨建取引が多く存在します。外貨建取引については、総原価に占める外貨建コストの比率を高める等の為替変動リスクの軽減を図るとともに、為替動向を考慮しながら計画的に為替予約等のヘッジを行っていますが、製造拠点の多くが日本国内に立地しているため、海外取引に関わるリスクを負っています。

 

(3) カントリーリスク

当社グループは、海外市場における事業の拡大を図っており、製品・サービスの輸出に加えて、海外での現地生産やプラント等の建設工事、販売・調達等の活動をグローバルに展開しています。製品仕向地や生産・工事・販売・調達等を行う国や地域での紛争・政情不安・デフォルト、貿易制裁、宗教・文化の相違、特殊な労使関係等により、円滑な業務遂行が妨げられ、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。

 

(4) 個別プロジェクト管理

当社グループは、お客様との個別契約に基づき受注する案件が多く、請負金額が大きい工事等の重要な案件については、応札時や受注契約時をはじめ、プロジェクト開始後も本社と事業部門でリスク分析やリスクへの対応等の十分な検討を行っています。しかし、当初想定できなかった政治・経済情勢の変動等による資材費や労務費の高騰、設計変更や工程の混乱等によって、当初見積り以上にコストが膨らみ、当該案件の損益悪化が生じた場合、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。

 

(5) 大規模災害

当社グループは、台風、地震、洪水、パンデミック等の各種大規模災害に対して発生時の損失を最小限に抑えるため、事業継続計画(BCP)の策定、緊急連絡体制の整備、定期的な点検や訓練の実施等を進めています。しかし、このような災害による人的・物的被害の発生や資材・物流の停滞等が、当社グループの事業活動(特に工場での生産活動)に大きな影響を及ぼす可能性があります。また、災害による損害が損害保険等で十分にカバーされる保証はありません。

 

 

(6) 情報セキュリティ

当社グループは、業務を通じて入手した取引先の機密情報や個人情報、また設計・技術・営業等の事業活動に係る機密情報を多数保有しています。これらの情報を保護するため、管理体制の整備や教育、情報セキュリティシステムの構築等を行い、情報漏えい防止に努めています。しかし、コンピュータウィルスの感染、不正アクセスや盗難、その他不測の事態により機密情報が消失、もしくは社外に漏えいした場合、当社グループの業績や信用・評判等に影響を及ぼす可能性があります。

 

(7) 人財の確保・育成

当社グループの各職場で長年培ってきた技術・技能を有する優秀な人財の多くが退職時期を迎え、我が国の少子化の進行とも相まって当社グループの事業活動や競争力の維持が阻害される可能性があります。その中で、積極的な採用活動を行い優秀な人財の確保に努めるとともに、技術・技能の伝承や人財の育成に努めていますが、計画どおり人財の確保・育成ができない場合、当社グループの事業活動に影響を及ぼす可能性があります。

 

(8) 資金調達

当社グループは、将来見通しを含めた金利動向等を勘案して資金調達を実施し、低金利・安定資金の確保に努めていますが、金利の変動をはじめとする金融市場の動向は、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。

 

(9) アライアンス

当社グループは、国内外の幅広い事業分野において、他社と業務提携、合弁事業等のアライアンス関係を築いています。これらの実施にあたっては、事前に収益性や投資回収の可能性について様々な観点から十分に検討を行っていますが、市場環境の変化、事業競争力の低下、相互の経営戦略の見直し等を理由として、アライアンス等が解消又は変更された場合、あるいは目論見どおりの効果を実現できない場合、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。

 

(10) 法令・規制

当社グループは、グローバルに事業を展開しており、国内外各地で関連する法令・規制の適用を受けます。このため、その遵守の徹底はもちろんのこと、グローバル企業倫理指針を制定し、コンプライアンス体制の強化を図っています。しかし、これらの対策を講じても、個人的な不正行為を含むコンプライアンスリスクの発生を完全に予防することは困難であり、重大な法令違反等が発生した場合には多額の過料・課徴金による損失や業務停止命令による受注機会損失の可能性があるほか、これに伴う社会的評価の低下が、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。

 

(11) 環境規制

当社グループは、国内外に製造設備を多数保有しており、各種環境規制の対象となる有害物質を使用している事業所やグループ会社があります。これらの有害物質の管理については十分な注意を払い、万一外部に流出した場合でもその影響を最小限に抑制するための各種対策を講じていますが、想定外の事態により環境への悪影響が発生した場合には、社会的評価の低下を招くとともに工場の操業停止や損害賠償責任等が生じ、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。

 

(12) 品質管理

当社グループは、品質や安全に関する法令・規則の遵守に努めるとともに、製品の品質確保や製品安全、機械安全のリスクアセスメントを通じて、常に信頼性の向上に努めています。しかし、外注先のグローバル化や複数化による品質リスクの高まり、人的リソース不足や外注依存による技術・技能の空洞化等から、製品の品質に起因する事故、あるいはクレームやリコールにより、損害賠償や訴訟費用等の多額のコストが発生することで、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。また、当社グループが支払う損害賠償額が製造物責任賠償保険でカバーされる保証はありません。

 

 

(13) 労働安全衛生

当社グループは、各事業所及び建設工事現場等における労働安全衛生管理には様々な対策を講じていますが、不測の事故、職場環境の不備・欠陥等により重大な労働災害や健康被害が発生した場合には、生産活動等に支障をきたすとともに社会的評価の低下を招き、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。

 

(14) 資材調達

当社グループは、原材料・部品・機器等を国内外の多くの取引先から調達しており、安定した調達を行うため原材料や部品等の市場動向を注視するとともに、取引先の品質管理を徹底しながら特定の取引先への過度の集中を避け複数化を図っています。しかし、取引先が限定される特殊性のある原材料や部品の調達が滞ることで当社グループの生産活動に支障をきたしたり、原材料・部品等の価格が高騰した場合、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。

 

(15) 研究開発

当社グループの研究開発活動に係る情報は、「第2 事業の状況 6 研究開発活動」に記載しています。これらの研究開発は、多額の費用と研究期間を要するため、研究開発が計画どおり進まず実用化の機会を喪失したり、市場ニーズとの不整合が生じ実用化に至らなかったり、実用化しても十分な成果が得られず、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。

 

(16) 知的財産

当社グループは、保有する特許権や実用新案権等の知的財産の適切な管理・保全に努めています。しかし、保有する知的財産が多岐にわたるため、第三者による侵害を完全に防止できない可能性があります。また、当社グループの製品や技術が他社等の知的財産を侵害し、損害賠償等を請求され、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。

 

(17) 関係会社

当社グループは、多数の関係会社を有しています。これらの関係会社は当社と相互に密接な協力体制を築く一方、独立会社として自主的な経営を行っているため、その事業の動向や結果が、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。

 

 

5 【経営上の重要な契約等】

(1) 技術援助契約(導入)

契約会社名

契約の相手方・国籍

契約の対象品目

対価

契約の始期・終期

川崎重工業㈱

(当社)

Lockheed Martin

Corporation

(米国)

P-3C対潜哨戒機

(1)イニシャルペイメント

(2)ロイヤルティ

(3)技術資料代

(4)技術者訓練費

昭和53年6月30日

(平成31年8月31日まで)

Boeing Intellectual

Property Licensing

Company

(米国)

CH-47ヘリコプタ

(1)イニシャルペイメント

(2)ロイヤルティ

(3)技術資料代

(4)技術者訓練費

(5)技術者招へい費

昭和60年1月14日

(平成31年7月22日まで)

Leonardo MW Ltd.
(英国)(注)1

EH-101ヘリコプタ

(1)イニシャルペイメント
(2)ロイヤルティ
(3)技術資料代

平成16年9月12日
(平成30年9月1日まで)

Honeywell

International Inc.

(米国)

T55-L-712、

712Aターボシャフトエンジン

(1)イニシャルペイメント

(2)ロイヤルティ

(3)技術資料代

(4)アニュアルフィー

昭和59年12月12日

(平成35年5月31日まで)

Saab Kockums AB

(スウェーデン)

スターリングエンジン

(1)イニシャルペイメント

(2)ロイヤルティ

(3)技術指導料

平成2年9月30日

(平成52年12月31日まで)

MAN Diesel & Turbo

(デンマーク)

2サイクル陸舶用ディーゼルエンジン

(1)ロイヤルティ

(2)技術資料代

(3)技術者招へい費

(4)技術者訓練費

昭和56年5月18日

(平成33年12月31日まで)

Safran Helicopter
Engines

(フランス)(注)2

RTM322ターボシャフトエンジン

(1)イニシャルペイメント
(2)ロイヤルティ

平成15年12月26日
(平成33年9月30日まで)

Rolls-Royce Power
Engineering plc

(英国)

舶用ガスタービンモジュール

(1)イニシャルペイメント

(2)ロイヤルティ

(3)技術者招へい費

平成3年8月28日

(平成33年11月30日まで)

 

(注)1 Leonard-Finmeccanica(イタリア)のグループ内組織再編に伴い、旧AgustaWestland Limited(英国)の業務は

    平成29年1月にLeonardo MW Ltd.に移管された。

  2 契約の相手方をTurbomeca S.A.(フランス)からSafran Helicopter Enginesに変更している。

 

(2) 技術援助契約(供与)

契約会社名

契約の相手方・国籍

契約の対象品目

対価

契約の始期・終期

川崎重工業㈱

(当社)

南通中遠川崎船舶工程有限公司

(中国)(注)

13,360TEUコンテナ船

(1)イニシャルペイメント

(2)ロイヤルティ

平成24年3月27日

(8隻目の引渡し日まで)

 

(注) 南通中遠川崎船舶工程有限公司は、持分法適用関連会社である。

 

 

6 【研究開発活動】

当連結会計年度は、「中計2016」の達成に向け、当社グループの持ち得る技術を結集して技術のシナジーを追求しつつ、事業部門と本社技術開発本部とが一体となって、研究開発に取り組みました。また、新たな顧客価値の創造を目指して、ICT/IoTの活用や、水素サプライチェーンの早期の構築に向けた取り組みにも力を入れています。

当連結会計年度における研究開発費は436億円であり、各事業セグメント別の主な研究開発の内容及び費用は以下のとおりです。

 

船舶海洋事業

コア・コンピタンスである低温・高圧ガス技術や環境負荷低減技術を強化するとともに、天然ガスと重油双方を燃料とする2元燃料エンジンを搭載した新船型LNG運搬船や、LNG/LPG燃料推進船の開発、AUV※などの水中機器の開発、船陸間通信によるビッグデータを活用した船舶運航管理支援システムの開発に取り組んでいます。また、水素サプライチェーンの構築に向け、世界初となる液化水素運搬船の実証船開発に注力しています。

当事業に係る研究開発費は8億円です。

(※ AUV: Autonomous Underwater Vehicle)

 

車両事業

台車主構造にCFRPを採用した鉄道車両用台車「efWING※」の機能向上・海外展開を視野に入れた量産化に向けた開発を行っています。また、ICT/IoTを活用した車両・軌道の状態監視などによる効率的なメンテナンス技術の開発に取り組んでいます。さらに、軽量構体の開発をはじめとした高速化技術や標準車両の深度化による低コスト化技術の開発にも注力しています。

当事業に係る研究開発費は8億円です。

(※ efWING: environmentally friendly Weight-Saving Innovative New Generation Truck)

 

航空宇宙事業

次期航空機事業への展開を目指し、P-1固定翼哨戒機/C-2輸送機の近代化・派生型、回転翼機の近代化・派生型、及びロケット衛星フェアリングなどの宇宙機器・システムなどの研究開発を実施するとともに、それらの開発に不可欠な基盤技術の強化を図りました。また、ボーイング777Xなど、次世代民間航空機の生産効率を向上させる自動化・ロボット化技術開発のほか、革新生産技術の開発やIoTを活用したスマートファクトリー化への取り組みを進めています。

当事業に係る研究開発費は38億円です。

 

ガスタービン・機械事業

ガスタービン部門では、市場のニーズにマッチする5MW級新型ガスタービンを開発しました。さらに、コージェネシステムのキーハードであるガスタービンのさらなる高効率化に向けた技術開発や、100%の水素を燃料とした水素専焼ガスタービンの開発にも注力しています。また、航空機エンジンについては、ギアおよび燃焼器関連技術や革新的な加工技術に関する研究開発に取り組んでいます。

機械部門では、発電市場向けとして、世界最高水準の効率と環境性能を誇るガスエンジンのさらなる効率向上に向けた技術開発や、環境対応型の舶用推進システムの実用化を進めています。

当事業に係る研究開発費は39億円です。

 

プラント・環境事業

世界的な資源有効利用や環境重視のニーズの高まりに対応し、バイオマスなどの未利用燃料を利用できるボイラの改良開発を継続実施中です。また、ICT/IoTや3Dデータを活用したゴミ焼却発電プラントの燃焼制御/運転支援技術や、製品の設計・生産プロセスを最適化する取り組みを推進しています。

さらに、水素サプライチェーンの構築に向けて、産業用として初となる純国産独自開発の水素液化システムの開発や、液化水素貯蔵・揚荷基地の技術実証を推進しています。

当事業に係る研究開発費は13億円です。

 

モーターサイクル&エンジン事業

Kawasakiのブランド力強化を目指し、優れた運動性能とツーリングに適した実用機能に加え、先進の電子制御技術により走行性能を高めたスポーツツアラー「Ninja 1000」や、新設計フレームを採用したZシリーズのニューモデル「Z900」などの新機種開発を行いました。さらに、かつてない新しいライディング体験の提供を目指し、人工知能を活用したモーターサイクルの開発にも着手しています。

当事業に係る研究開発費は143億円です。

 

精密機械事業

油圧機器部門では、ショベル分野における圧倒的なシェア維持を目指し、油圧ポンプ・モータ、コントロール弁などの高性能化や、燃費と操作性のさらなる向上を目指した新たな油圧システムの開発に取り組んでいます。また、ショベル以外の建設機械分野や農業機械分野への拡販を見据え、それに適した小型軽量・高効率な油圧ポンプ・モータ、コントロール弁の開発ならびにシリーズ展開を進めています。

ロボット部門では、人と産業用ロボットとが共存・協調して安全に作業ができる双腕型スカラロボット「duAro」の適用拡大に向けた高機能化や、業界最小・最軽量のロボットコントローラなどの開発を行いました。さらに、将来市場の大きな伸びが期待される医療・ヘルスケア分野への展開を目指し、医療用ロボットの研究開発にも取り組んでいます。

当事業に係る研究開発費は53億円です。

 

本社部門・その他

本社技術開発本部は、当社グループのさらなる企業価値向上を目指し、事業部門と一体となって「新製品・新事業」開発に取り組むとともに、将来に向けた基盤技術の育成・強化を進めています。

また、ICT/IoT活用によるものづくり革新や新たなサービス事業の創出についても、事業部門と協力して取り組み、製品ライフサイクル全体での競争力強化を進めています。

さらに、国のエネルギー基本計画に盛り込まれている「水素を本格的に利活用する水素社会」の実現を見据え、水素の製造から輸送・貯蔵、利用までのサプライチェーンの早期構築に向けたパイロット規模の液化水素インフラの開発・実証を、事業部門、さらには政府機関や関係各社とも連携して積極的に推進しています。

これら本社部門に係る研究開発費は130億円です。

 

 

7 【財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

(1) 経営成績

当連結会計年度における連結売上高は、プラント・環境事業や精密機械事業が増収となる一方で、円高の影響や前期に建設機械事業を譲渡したことなどにより、全体では前期並みとなりました。

営業利益は、船舶海洋事業の悪化や航空宇宙事業などの減益により、前連結会計年度比52.1%減少し、459億円となりました。

 

(2) 財政状態

(資産)

流動資産は、前期比5.8%増加し、1兆778億円となりました。これは主として、受取手形及び売掛金の増加によります。固定資産は、設備投資による有形固定資産の増加を主因に、前期比1.1%増加し、6,095億円となりました。

この結果、総資産は前期比4.1%増加の1兆6,873億円となりました。 

 

(負債)

負債全体では、前受金などの増加を主因に、前期比5.2%増加し、1兆2,360億円となりました。

 

(純資産)

純資産は、親会社株主に帰属する当期純利益の計上による増加、配当金の支払による減少などにより、前期比1.2%増加し、4,513億円となりました。

 

(3) キャッシュ・フローの状況

「第2 事業の状況 1 業績等の概要 (2) キャッシュ・フローの状況」をご参照下さい。