第2【事業の状況】

1【業績等の概要】

(1)業績

当連結会計年度における世界経済は、原油価格の下落や為替の変動が見られた中でも、米国や欧州等の先進国やアジア地域の成長により、全体では緩やかな回復基調を維持しました。しかしながら、中国を中心とした新興国経済の成長には減速感も見られ始め、その影響が先進国経済にも波及し始めました。原油安や新興国経済の減速が継続しており、企業や消費者心理の悪化等により世界経済が下振れするリスクが強まってきております。

当社の連結業績に影響を与えるエレクトロニクス市場を概観しますと、その生産水準はセット製品(最終財)により異なっております。スマートフォンの生産は、中国市場においても引き続き需要が拡大したことにより、前連結会計年度の水準を上回りました。自動車の生産は、米国での堅調な販売に支えられ、前連結会計年度に比べ若干増加しました。一方、パソコンの生産は、Windows XPサポート終了に伴う買い替え需要が底堅く推移した前連結会計年度に比べ減少しました。また、ハードディスクドライブ(HDD)の生産も、データセンター向けの需要は底堅く推移しているものの、パソコンの需要減やパソコン内部のHDDからソリッドステートドライブ(SSD)への置換えが進んだ影響を受け、前連結会計年度に比べ大幅に下回って推移しました

このような経営環境の中、当社の連結業績は、売上高1,152,255百万円(前連結会計年度1,082,560百万円、前連結会計年度比6.4%増)、営業利益93,414百万円(同72,459百万円、同比28.9%増)、税引前当期純利益91,839百万円(同74,517百万円、同比23.2%増)、当社株主に帰属する当期純利益64,828百万円(同49,440百万円、同比31.1%増)、1株当たり当社株主に帰属する当期純利益514円23銭(同392円78銭)となりました。

当連結会計年度における対米ドル及びユーロの平均為替レートは、120円13銭及び132円67銭と前連結会計年度に比べ対米ドルで9.4%の円安、対ユーロで4.5%の円高となりました。この為替変動により、約853億円の増収、営業利益で約173億円の増益となりました。

当社グループの事業セグメントは、「受動部品」、「磁気応用製品」及び「フィルム応用製品」の3つの報告セグメントとそれらに属さない「その他」に分類されます。なお、当連結会計年度における組織変更により、従来「受動部品」セグメントのインダクティブデバイス事業及びその他受動部品、並びに「磁気応用製品」セグメントのその他磁気応用製品に、それぞれ属していた一部の製品を「その他」に区分変更するとともに、前連結会計年度の数値についても変更後の区分に組替えております。

受動部品セグメントは、①コンデンサ事業 ②インダクティブデバイス事業 ③その他受動部品 で構成され、当セグメントの連結業績は、売上高が前連結会計年度の531,998百万円から8.2%増の575,746百万円、セグメント利益が前連結会計年度の36,611百万円から81.4%増の66,404百万円となりました。

当セグメントの売上概況を事業別にみますと、次のとおりであります。

コンデンサ事業は、セラミックコンデンサ、アルミ電解コンデンサ及びフィルムコンデンサから構成され、売上高は前連結会計年度の148,960百万円から1.0%増の150,402百万円となりました。セラミックコンデンサの販売は、自動車市場向けで増加し、アルミ電解コンデンサ及びフィルムコンデンサの販売も、自動車市場向けで増加しました。

インダクティブデバイス事業の売上高は、前連結会計年度の147,282百万円から1.3%増の149,229百万円となりました。自動車市場向けの販売が増加しました。

その他受動部品は、高周波部品、圧電材料部品・回路保護部品及びセンサで構成されており、売上高は前連結会計年度の235,756百万円から17.1%増の276,115百万円となりました。高周波部品の販売は、ICT(情報通信技術)市場向けで大幅に増加しました。圧電材料部品・回路保護部品の販売は、ICT市場向けで増加しました。センサの販売は、自動車市場及び産業機器市場向けで増加しました。

磁気応用製品セグメントは、①記録デバイス事業 ②その他磁気応用製品 で構成され、当セグメントの連結業績は、売上高が前連結会計年度の363,347百万円から13.2%減の315,322百万円、セグメント利益が前連結会計年度の29,676百万円から55.5%減の13,194百万円となりました。

当セグメントの売上概況を事業別にみますと、次のとおりであります。

記録デバイス事業は、主にHDD用ヘッドとHDD用サスペンションから構成され、売上高は、前連結会計年度の260,506百万円から15.6%減の219,836百万円となりました。HDD用ヘッド及びHDD用サスペンションの販売は、HDD生産水準が低調に推移したことにより減少しました。

その他磁気応用製品は、電源及びマグネットで構成されており、売上高は、前連結会計年度の102,841百万円から7.2%減少し95,486百万円となりました。電源の販売は、産業機器市場向けで増加しました。一方、マグネットの販売は、自動車市場及びICT市場向け(HDD向け)で減少しました。

 

フィルム応用製品セグメントは、エナジーデバイス(二次電池)及びアプライドフィルムで構成され、当セグメントの連結業績は、売上高が前連結会計年度の151,275百万円から47.0%増の222,359百万円、セグメント利益が前連結会計年度の24,558百万円から48.0%増の36,356百万円となりました。

エナジーデバイスの販売は、ICT市場向けで大幅に増加しました。

3つの報告セグメントに属さないその他は、メカトロニクス(製造設備)等で構成され、売上高は前連結会計年度の35,940百万円から8.0%増の38,828百万円、セグメント利益が前連結会計年度の571百万円から229.4%増の1,881百万円となりました。

地域別売上高の状況は、次のとおりであります。

国内における売上高は、前連結会計年度の93,212百万円から2.3%減の91,052百万円となりました。受動部品セグメント及び磁気応用製品セグメントが減少しました。

米州地域における売上高は、前連結会計年度の89,871百万円から13.5%増の101,974百万円となりました。受動部品セグメントが増加しました。

欧州地域における売上高は、前連結会計年度の146,016百万円から0.5%減の145,336百万円となりました。受動部品セグメントが減少しました。

中国における売上高は、前連結会計年度の565,257百万円から7.2%増の606,045百万円となりました。受動部品セグメント及びフィルム応用製品セグメントが増加しました。

アジア他の地域における売上高は、前連結会計年度の188,204百万円から10.4%増の207,848百万円となりました。受動部品セグメント及びフィルム応用製品セグメントが増加しました。

この結果、海外売上高の合計は、前連結会計年度の989,348百万円から7.3%増の1,061,203百万円となり、連結売上高に対する海外売上高の比率は、前連結会計年度の91.4%から0.7ポイント増加し92.1%となりました。

(2)キャッシュ・フロー

各キャッシュ・フローの状況は、次のとおりであります。

(営業活動によるキャッシュ・フロー)

営業活動によって得たキャッシュ・フローは、151,563百万円となり、前連結会計年度比8,713百万円増加しました。主な増加要因は当期純利益及び仕入債務の増加であります。

(投資活動によるキャッシュ・フロー)

投資活動に使用したキャッシュ・フローは、140,585百万円となり、前連結会計年度比13,273百万円増加しました。主な増加要因は固定資産の取得の増加であります。

(財務活動によるキャッシュ・フロー)

財務活動によって得たキャッシュ・フローは、29,305百万円となり、前連結会計年度の財務活動に使用したキャッシュ・フローとの差は64,548百万円となりました。これは主に、短期借入債務の増加によるものであります。

これらに為替変動の影響を加味した結果、平成28年3月31日現在における現金及び現金同等物は、前連結会計年度末比20,364百万円増加して285,468百万円となりました。

2【生産、受注及び販売の状況】

(1)生産実績

当連結会計年度における生産実績を事業の種類別セグメントごとに示すと、下表のとおりであります。

事業の種類別セグメントの名称

生産実績

(百万円)

前連結会計年度比増減(%)

受動部品

577,437

5.8

磁気応用製品

310,335

△ 16.4

フィルム応用製品

229,246

46.4

その他

40,691

65.6

合計

1,157,709

5.4

(注)1.金額は販売価格により算出しております。

2.上記の金額には、消費税等は含まれておりません。

(2)受注状況

当連結会計年度における受注状況を事業の種類別セグメントごとに示すと、下表のとおりであります。

事業の種類別セグメントの名称

受注高

(百万円)

前連結会計

年度比増減

(%)

受注残高

(百万円)

前連結会計

年度末比増減

(%)

受動部品

585,958

3.7

123,308

16.2

磁気応用製品

305,049

△ 15.9

27,124

△ 19.1

フィルム応用製品

316,687

32.9

52,729

35.6

その他

30,532

45.2

2,368

△ 27.4

合計

1,238,226

4.3

205,529

13.0

(注)金額は販売価格により算出しております。

(3)販売実績

当連結会計年度における販売実績を事業の種類別セグメントごとに示すと、下表のとおりであります。

事業の種類別セグメントの名称

販売実績

(百万円)

前連結会計年度比増減(%)

受動部品

575,746

8.2

磁気応用製品

315,322

△ 13.2

フィルム応用製品

222,359

47.0

その他

38,828

8.0

合計

1,152,255

6.4

(注)上記の金額には、消費税等は含まれておりません。

3【対処すべき課題】

昭和10年に、磁性材料フェライトを工業化する目的で創設された当社は、「創造によって文化、産業に貢献する」という創業の精神に基づく独創性と、様々な変化へのスピーディーな適応を活力に成長してまいりました。

① 当社グループの中長期的な経営戦略

当社グループは、平成28年3月期を初年度とする3か年の中期経営計画を策定し、持続的な成長による企業価値のさらなる向上を目指しております。「グループの連携を進化させ、更なる成長を実現する」という基本方針のもとに、高い技術力に基づく「ゼロディフェクト品質(不良品ゼロ)」を追求するとともに、スピード経営による「真のグローバル化」を推進してまいります。

事業に関しましては、受動部品、磁気応用製品、フィルム応用製品の3つのセグメントに続く新規事業による売上拡大を加速し、収益性を向上してまいります。重点事業に対する投資に加え、新製品開発・新規事業へ効率的に投資を実施しながら、中期的には営業利益率10%以上、ROE10%以上を達成することを目標としてまいります。一方、株主還元につきましては、こうした投資による効果を発現することで、1株当たりの成長を通じた安定的な配当を継続する方針であります。

また、持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を目的に平成27年6月から上場会社に適用された「コーポレートガバナンス・コード」を受け、当社グループは、適切な情報開示と透明性の確保に努め、取締役会の役割・責務を適切に果たすとともに、株主及び投資家との建設的なエンゲージメント(対話)を引き続き活性化させてまいります。

② 当社グループの対処すべき課題

世界経済は中国の成長鈍化や原油価格の下落による資源国経済の落ち込みといった懸念を抱えながらも、米国経済の拡大を背景に全体としては緩やかな回復基調にあります。自動車やスマートフォン等のエレクトロニクス市場も、概ね堅調に市場拡大が進んでいる一方で、製品の高機能化や薄型化、安全性水準の高度化が進んでおります。そうした中、特に車載用をはじめとする電子部品の品質・性能に対するお客様からの要求水準が益々高まってきております。

このような現状を踏まえ、当社グループではゼロディフェクト品質の早期実現を重要な課題として捉えております。材料から製造までを一元管理した生産プロセスのさらなる強化を推進してまいります。また、並行して品質向上、調達・エネルギー効率の革新、コスト低減を3本の柱としたモノづくり改革を加速してまいります。

中期経営計画の初年度においては、自動車、ICT、産業機器・エネルギーの3分野における柱事業として位置付けた5事業(インダクティブデバイス、高周波部品、圧電材料部品・回路保護部品、記録デバイス(HDD用ヘッド)、エナジーデバイス(二次電池))の成長戦略を推進してまいりました。今後は、米国のクアルコム社との広範囲な事業領域における協力体制の強化、スイスの磁気センサ事業会社であるミクロナス社の買収等により、戦略成長製品(センサ・アクチュエータ、エネルギーユニット、次世代電子部品)の拡大を加速し、IoT(モノのインターネット)市場における事業機会の獲得を目指してまいります。また、柱事業の一つである記録デバイス(HDD用ヘッド)事業は、パソコンの需要減、SSDへの置換え等によるHDD市場縮小の影響を受け、厳しい事業運営を強いられることが見込まれます。自社の生産規模の適正化及び先端技術力による製品・サービスの提供により、縮小する市場においても“必要とされる存在”であり続けることを目指してまいります。一方、一部の事業については、抜本的な対策を着実に実行し、早期に高収益体質へ転換することに注力いたします。

また、それぞれの事業展開を支えるためには、中長期的な視点に立った技術開発、製品開発が欠かせません。その役割を担う本社開発機能は、情報通信デバイス開発、エネルギーデバイス開発、材料開発の3センターで編成し、市場分野の特性に合った開発体制を構築しております。さらに地域の特性に合った活動を展開するために、米国、欧州、中国の研究開発機能を強化いたします。

事業強化にあたっては環境の側面にも配慮し、顧客要求・社会動向(省エネルギー、法規制遵守、安全性等)に適合した製品を供給していくとともに、企業活動で生じる環境負荷の低減(二酸化炭素の排出量削減等)を進めてまいります。このように企業市民として社会と共生することの大切さを改めて認識し、環境保全への貢献に取り組むとともに、当社グループの持続的な成長及び中長期的な企業価値の向上を実現するため、コーポレート・ガバナンスの一層の充実を図ってまいります。

 

平成27年12月に当社は創立80周年を迎えました。グループを構成する一人ひとりが今一度、「創造によって文化、産業に貢献する」(社是)という創業の精神に立ち返るとともに、成長のために挑戦し続ける風土の醸成に取り組んでまいります。

4【事業等のリスク】

有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、投資家の判断に重要な影響を及ぼす可能性のある事項には、次のようなものがあります。なお、文中の将来に関する事項は、有価証券報告書提出日(平成28年6月29日)現在において判断した記載としております。

(1)経済動向変化によるリスク

当社グループが事業展開しているエレクトロニクス業界は、最終製品の主たる消費地である米国、欧州、中国を主とするアジア及び日本の景気動向に大きく左右されます。さらに、それらの国または地域には、国際問題や経済の浮沈といった様々なリスク要因が常に存在しています。当社グループでは世界の経済動向を注視し適時対策を講じておりますが、このような経営環境の変化が予想を超えた場合、業績に大きな影響を及ぼす可能性があります。

(2)為替変動によるリスク

当社グループはグローバルで事業を展開しており、海外売上高比率は90%を超え、取引通貨の多くはドル・ユーロ等、円以外の通貨であります。これらの通貨に対する急激な円高の進行は売上高の減収や営業利益の減益等、損益に影響を与えますが、当該リスク軽減のため、当社グループでは外貨建原材料購買の増大や海外消費資材の現地調達化を進めております。また、海外における投資資産や負債価値は、財務諸表上で日本円に換算されるため、為替レートの変動は、換算差による影響が生じます。為替レートの変動に対応するため、外貨建資金調達及び為替予約契約の締結等の対策は講じておりますが、予想を超えた急激な外国為替レートの変動は、当社グループの財政状況及び業績に大きな影響を及ぼす可能性があります。

(3)海外展開にともなうリスク

当社グループは、市場性、製品群、物流等の観点から適地を選定し世界各国に事業展開し、連結ベースでの海外売上高比率は90%を超えています。

対象となる多くの市場や、今後経済発展が見込まれる新興国では、戦争やテロといった国際政治に関わるリスク、為替変動や貿易不均衡といった経済に起因するリスク、文化や慣習の違いから生ずる労務問題や疾病といった社会的なリスクが、予想をはるかに超える水準で不意に発生する可能性があります。また、商習慣の違いにより、取引先との関係構築においても未知のリスクが潜んでいる可能性があります。こうしたリスクが顕在化した場合、生産活動の縮小や停止、販売活動の停滞等を余儀なくされ、業績に大きな影響を及ぼす可能性があります。

特に当社グループは、経済発展が著しい中国に製造拠点を数多く有し、同国へ進出している得意先及び現地企業への供給体制を確立しております。同国にて政治的要因(法規制の動向等)、経済的要因(高成長の持続性、電力等インフラ整備の状況等)及び社会環境における予測し得ない事態が発生した場合、業績に大きな影響を及ぼす可能性があります。

(4)価格競争に関するリスク

当社グループは、競争が激化しているエレクトロニクス業界において、スマートフォンに代表されるICT市場、今後一層の電装化が進展する自動車市場、太陽光発電・風力発電等のエネルギー関連市場等多岐にわたる市場で電子部品の展開を行っています。同業界においては、価格による差別化が競争優位を確保する主たる要因の一つであり、有力な日本企業や韓国、台湾及び中国等のアジア企業を交えた価格競争は熾烈を極めております。

当社グループでは、こうした市場競争に対して継続的なコストダウン施策の推進や収益性向上に努めておりますが、市場からの価格引き下げの圧力はますます強まる傾向にあり、価格下落が当社グループの想定を大きく上まわり、かつ長期にわたった場合、業績に大きな影響を及ぼす可能性があります。

(5)技術革新・新製品開発におけるリスク

当社グループでは、価値ある新製品をタイムリーに世に送り出すことが企業収益向上に貢献し、さらに継続的な新製品開発が企業存続の鍵となるものと確信しております。魅力的で、革新的な新製品の開発による売上高の増加が、企業の成長にとって重要な役割を担っていると考えており、この点を経営戦略の主題として新製品の開発に取り組んでおります。しかしながら、変化の激しいエレクトロニクス業界の将来の需要を予測し、常に業界及び市場において技術革新による魅力的な新製品をタイムリーに開発・供給し続けることができるとは限りません。これらのリスクを回避する方策の一つとして、当社グループの開発部門においては市場の動向を分析して継続的に研究開発体制を見直すとともに、開発テーマの選択と集中を進めるための開発マネジメントを実施しておりますが、販売機会喪失により将来市場はもとより既存市場さえも失うリスクもあり、業績及び成長見通しに大きな影響を及ぼす可能性があります。

(6)製品の品質に関するリスク

当社グループは、国内外生産拠点において、ISO(International Organization for Standardization 国際標準化機構)の品質マネジメントシステム規格(ISO9001)や技術革新著しいエレクトロニクス業界の顧客が求める厳しい基準に従い、多様な製品の品質管理を行っております。また、独自に保有する品質技術や過去から蓄積する品質トラブルデータを活用し、製品の企画、設計、試作、製造の各段階での設計審査、内部品質監査、購入先監査・指導、工程管理等を通じて通常の製品使用に耐えうる信頼性、安全性を確保出来るよう、開発上流段階から品質を作り込む品質保証体制の構築を図っております。

しかしながら、予想し得ない品質上の欠陥(規制物質含有を含む)や、それに起因するリコールが発生し得ないとは限りません。当社製品のリコールや製造物責任の追及がなされた場合、回収コストや賠償費用の発生、また販売量が減少する恐れがあります。さらに当社ブランドを冠した商品の品質上の欠陥によりブランドの信用が失墜し、企業としての存続を危うくする事態を招くことも想定されます。このように、重大な品質問題が発生した場合、業績に大きな影響を及ぼす恐れがあります。

(7)知的財産におけるリスク

当社グループは、事業収益に貢献する戦略的知財活動として当社製品の機能、デザイン等に関する特許、ライセンス及び他の知的財産権(以下、総称で“知的財産権”)の管理・取得による特許ポートフォリオの強化とその活用に努めております。

しかしながら、特定の地域では、固有の事由によって当社グループの知的財産権が完全に保護されない場合があり、第三者が知的財産を無断使用して類似した製品を製造することによって損害を受けることもあります。

一方では、当社グループの製品が第三者の知的財産権を侵害しているとの主張を受ける可能性もあります。当社グループが侵害したとして第三者から訴えられた場合、訴訟活動や和解交渉が必要であり、これらの係争において、主張が認められなかった場合には、損害賠償やロイヤリティの支払、市場を失う等の損失が発生する恐れがあります。

このように、知的財産権について重大な係争問題が発生した場合には、事業展開、業績に大きな影響を及ぼす可能性があります。

(8)人材獲得と人材育成に関するリスク

当社グループは、海外売上高比率や生産に占める海外比率も高く、近年、設計・生産拠点の海外移転が加速するとともにグループ企業も急増しグローバルに従業員数が拡大しています。変化の激しいエレクトロニクス業界において継続的に事業を発展させるためには、多様な専門技術に精通した人材、経営戦略や組織運営といったマネジメント能力に優れた人材の確保、育成を継続的に推進していくことが重要となります。

事業の継続的発展のために新卒採用や経験者の通年採用を積極的に展開し、また、目標管理制度に基づいた公平な評価・処遇制度の充実、自律型人材やグローバル人材を育成するための各種教育制度の拡充、モノづくりのDNAの伝承等、社員のモチベーションを向上する仕組みを構築し社員の定着と育成に努力しております。

しかしながら、必要な人材を継続的に獲得するための競争は厳しく、日本国内においては、少子高齢化や労働人口の減少等、また、中国等の海外拠点においても、雇用環境の変化が急速に進んでおり、人材獲得や育成が計画通りに進まなかった場合、長期的視点から、事業展開、業績及び成長見通しに大きな影響を及ぼす可能性があります。

(9)原材料等の調達におけるリスク

当社グループは、原材料等を複数の外部供給者から購入し、適時、適量の確保を前提とした生産体制をとっております。しかしながら、主要原材料は代替困難な限られた供給者に依存する場合があります。そのため、供給者の被災及び事故等による原材料等の供給中断、品質不良等による供給停止、さらに製品需要の急増による供給不足等が発生する可能性があります。また、海外生産拡大に伴う現地調達においては海外情勢に影響を受ける場合があり、それらが長期にわたった場合、生産体制に影響を及ぼし、顧客への供給責任を果たせなくなる可能性があります。市場における需給バランスが崩れた場合、原材料価格の急激な高騰や原油をはじめとする燃料価格の高騰による製造コストの増大が想定されます。こうしたリスクに対して仕入先の適時見直し等を実施しておりますが、想定を超えた状況が生じた場合、業績に大きな影響を及ぼす可能性があります。

(10)政府機関の規制によるリスク

当社グループは、事業展開している国内外において、事業や投資に関する許認可、電気及び電気製品の安全性、国家間の安全保障及び輸出入関連、また、商行為、反トラスト、特許、製造物責任、環境、消費者及び税金に関連する法規制等、様々な規制下に置かれ遵守を求められております。

将来において、さらなる規制強化が進み、当社の事業展開に大きな影響が及ぼされた場合、様々な費用負担増をもたらすとともに、その規制に適応し得ない事態になった場合には当該ビジネスからの部分的撤退等の可能性も想定されます。

このように、政府機関による様々な規制強化が、業績に大きな影響を及ぼす可能性があります。

(11)金利変動によるリスク

当社グループは銀行預金や国債等の金融資産及び銀行借入金や社債、リース債務等の負債を保有しております。想定を超えた金利の変動は受取利息及び支払利息の増減、あるいは金融資産及び金融負債の価値に影響を与え、当社グループの財政状況及び業績に大きな影響を及ぼす可能性があります。

(12)B to B(企業間取引)のリスク

当社グループは、主に、エレクトロニクス市場や自動車市場の顧客に電子部品を供給するB to B (企業間取引)をグローバルに展開しております。

多様な顧客と取引を行うと共に、顧客の信用リスク評価を勘案して取引条件を設定する等のリスク低減を図っておりますが、それぞれの顧客の業績及び経営戦略の転換等、当社グループが介入し得ない様々な要因によって大きな影響を受ける可能性があります。また、顧客の業績低迷による購買需要の減少や調達方針の変更による納入価格の引き下げ圧力の増大、契約の予期せぬ終了等による過剰在庫の発生や収益性の悪化に陥る可能性があります。

国内外での異業種や競合企業による顧客企業のM&Aにより企業再編が行われた場合、注文が著しく減少もしくは取引すべてが消滅する等、当社グループの販売に大きな影響を与える可能性もあります。

(13)自然災害、電力供給及び感染症によるリスク

当社グループは、国内外において多数の製造工場や研究開発施設を有しております。各事業所では、不慮の自然災害や感染症発生等に対する防災、防疫対策や電力不足に対して自家発電設備の導入を施しておりますが、BCP(事業継続計画)の想定をはるかに超えた大規模な地震や津波、台風や洪水、火山の噴火等の自然災害やそれに起因する大規模停電、電力不足及び新型インフルエンザ等の未知の感染症によって大きな被害を受ける可能性があります。それらの影響を受け、製造中断、輸送ルート寸断、情報通信インフラの損壊、途絶及び中枢機能の障害もしくは顧客自身に大きな被害が生じた場合にも、受注や供給が長期間にわたって滞り、業績に大きな影響を及ぼす可能性があります。

(14)環境規制におけるリスク

当社グループは、国内外において製造過程で生じる各種廃棄物や大気中または水中への排出物、製品に含有する特定の有害な化学物質等について、様々な法律による環境規制を受けております。また地球環境保全の見地から、今後ますます環境規制の強化が進むことにより、適応するための費用が増大する可能性もあります。

法律による環境規制を遵守し、様々な環境保全活動を推進しておりますが、環境規制への適応が対応能力を超えた場合の当該ビジネスからの部分撤退や対応の遅れ等により信頼が損なわれた場合、業績に大きな影響を及ぼす可能性があります。

(15)M&Aにおけるリスク

当社グループは、競争が激化するエレクトロニクス分野において、企業価値を継続的に向上させるために必要な技術やその他の要素については内部での醸成を基本と考えておりますが、事業の成長を加速させる上で有効な手段となる場合や、市場において短期間で優位性を確立するといった大きな相乗効果が見込める場合は、必要に応じてM&Aを実施しております。

M&A実施に当たっては、市場動向や顧客のニーズ、相手先企業の業績、財務状況、技術優位性や市場競争力、当社グループの事業ポートフォリオ等を十分に考慮し進めております。

しかしながら、市場環境や競争環境の著しい変化や買収した事業が計画通りに展開することができず、投下した資金の回収ができない場合や追加的費用が発生した場合、当社グループの業績や成長見通し及び事業展開等に大きな影響を及ぼす可能性があります。

(16)情報セキュリティにおけるリスク

当社グループは、事業を展開する上で、顧客及び取引先の機密情報や個人情報、また、当社グループの機密情報や個人情報を有しています。これらの情報は、外部流出や改ざん等が無いように、グループ全体で管理体制を構築し、徹底した管理とITセキュリティ、施設セキュリティの強化、従業員教育等の施策を実行しております。しかしながら、外部からの攻撃や過失や盗難等によりこれらの情報が流出もしくは改ざんされる可能性があります。

万一、このような事態が生じた場合には、信用低下や被害を受けた方への損害賠償等の多額の費用が発生し、業績に大きな影響を及ぼす可能性があります。

5【経営上の重要な契約等】

(1)Hutchinson Technology Incorporated(ハッチンソンテクノロジー、以下HTI)買収契約の締結

当社は、HDDヘッド用サスペンションメーカーであるHTIを買収する最終契約を平成27年11月1日に締結いたしました。当社はHTIの株式を、米国子会社を通して100%取得し子会社化します。HTI社株主による承認と関係当局の許可を経た後、買収を完了する見通しです。

①買収の目的

この買収により、当社グループのHDD用サスペンション事業及びHDDヘッド事業全体の強化を図ります。

②HTIの概要

社名         :Hutchinson Technology Incorporated (ハッチンソンテクノロジー)

本社所在地      :Hutchinson, Minesota, U.S.A (ハッチンソン、ミネソタ、U.S.A)

代表者の役職・氏名  :Richard J. Penn(CEO&President)

主な事業の内容    :HDDヘッド用サスペンション部品及びサスペンションの設計、製造、販売

(2)Micronas Semiconductor Holding AG(ミクロナスセミコンダクタホールディングAG、以下ミクロナス)株式取引基本契約

当社は、自動車・産業機器向けに最先端磁気センサとICシステムを提供するミクロナスの株式を、TDKマグネティックフィールドセンサー合同会社(SPC)を通じて、公開買付けにて取得し、子会社化することについて平成27年12月17日開催の取締役会において決議し、同日付で株式取引基本契約にて締結しました。

①買収の目的

磁気抵抗素子を用いた磁気センサに強みをもつ当社の磁気センサ事業をさらに拡大させるため、磁界検出に有効なホール素子に加えて、回路設計技術とパッケージ技術に強みを有するミクロナスを子会社化し、当社グループの磁気センサ事業とのシナジー効果を発揮することで、グローバル市場において、さらなる事業拡大を図ってまいります。

②ミクロナスの概要

社名         :Micronas Semiconductor Holding AG (ミクロナスセミコンダクタホールディングAG)

本社所在地      :Zurich, Switzerland (チューリッヒ、スイス)

代表者の役職・氏名  :Matthias Bopp(CEO)

主な事業の内容    :自動車・産業機器向け磁気センサ、システムの設計、製造、販売

(3)Qualcomm Incorporated(以下Qualcomm)との合弁会社の設立を伴う業務提携契約

当社は、平成28年1月13日開催の取締役会において、移動体通信に用いられる通信技術の開発、半導体の設計開発を行うQualcommとの合弁会社の設立を伴う広範囲な事業領域における業務提携について決議し、同日付で契約締結しました。本契約のクロージングは、法規制上の許認可や合弁会社の諸々の手続き完了を条件とし、平成29年初めまでに完了する見通しです。

①業務提携ならびに合弁会社設立の理由

モバイル通信のグローバル市場において求められている、ワイヤレスソリューションとモジュールソリューションをタイムリーに提供するためには、半導体メーカーと一体となった緊密かつスピーディーな経営環境の創出が必要不可欠と判断し、グローバル市場で多くの実績と信頼性の高い最先端の半導体を製造、販売しているQualcommとの合弁会社設立を伴う広範囲な事業領域における業務提携の締結を決定しました。

②業務提携の内容

当社の100%子会社であるEPCOS AG(以下EPCOS)が、同社の高周波事業を運営する会社を傘下に持つ持株会社を設立し、この持株会社に対する持分の過半数をQualcommの間接所有100%子会社であるQualcomm Global Trading PTE.Ltd(以下QGT)へ譲渡します。その後EPCOSとQGTはこの持株会社を合弁会社として運営する予定です。合弁会社の名称はRF360 Holdings Singapore PTE.Ltdとし、出資比率はQGT:51%、EPCOS:49%です。また、当社とQualcommはセンサや非接触給電といった主要技術領域で、技術協力を拡大していくことについても合意しました。

6【研究開発活動】

当社グループの研究開発活動は、多様化するエレクトロニクス分野へ対応するため、継続的に新製品開発の強化拡大を進めております。特に、ICT分野、自動車分野、ならびに産業機器・エネルギー分野に注力し、当社グループが強みとしているモノづくり力を最大限に活かして電子デバイスの高機能化、小型化、省エネルギー化に貢献してまいりました。これらの注力する3分野の市場の変化を捉えた技術戦略を基に、今後の成長が大いに期待されるセンサ・アクチュエータ、エネルギーユニット、次世代電子部品を成長戦略製品と位置づけて、IoT市場における事業機会獲得を目指して強化に注力しております。センサは車載用途を中心に事業拡大の機会創出に向けた開発を加速しております。アクチュエータはMEMS(微小電気機械システム)やピエゾ部品と組み合わせて特長のある製品の創出を図っております。エネルギーユニットについては電池や電源、非接触給電などを組み合わせた製品の開発、またモータ向けに拡大している磁石の開発にも注力しております。次世代電子部品としては、SESUB(IC内蔵基板)技術、薄膜技術、材料技術を融合させ、多様化する市場のニーズに応える高付加価値製品開発を推進しております。

本社研究開発機能では、それぞれの市場分野に対応した専門性の高い技術者たちが自由な発想で研究開発を展開できるように、フレキシブルに開発体制を見直しております。全社共通の基盤技術に磨きをかけるとともに、中長期で製品化を目指す開発に注力しております。「技術を繋ぐ、未来に備える」をスローガンに、当社グループの技術をお客様へ繋ぐことを目指し、未来の社会へ備えて、お客様の役に立つ開発を進めております。

受動部品事業分野では、コア技術を活かした次世代積層セラミックチップコンデンサやインダクタ製品ならびにEMC対策部品などの小型化、高性能化を進めております。また、高周波化が進むモジュール製品への対応を強化しております。

磁気応用製品事業分野では、高性能希土類磁石や次世代フェライト磁石の製品化、次世代高記録密度ヘッドの開発及びハイブリッド自動車/電気自動車用デバイスの開発を強化しております。また、省エネルギーが訴求される社会情勢に適した高効率電源の開発にも注力しております。さらに希土類元素原料の高騰による販売価格上昇を避けるために、希土類元素使用量の削減と希土類元素を使用しない磁石開発にも開発資源を投入しております。

フィルム応用製品事業分野では、次世代リチウム電池材料の開発と、新たな機能性フィルムの開発を進めております。

これらの研究開発活動については、日本国内のみならず注力市場の地域特性に即した海外R&D体制を構築しながら未来の社会に備えて最先端の研究開発を進めております。

さらに米国、欧州の有力大学との研究開発の推進及び海外研究開発子会社を含め、現地技術資源の活用をワールドワイドに展開しております。中国においては今後の事業基盤の確立と展開を目指して、電子デバイス材料関連の研究開発を行っております。

当社グループの研究開発活動において、優秀な人材の確保と人材育成、及び最先端理論の導入、そして当社グループが保有していない技術については内外の公的機関、大学、研究機関との産官学アライアンスを積極的に進めております。特に、東京工業大学とは、磁性・磁石技術をベースとした先端的な共同研究を含む組織的連携協定を締結し、独自性の高い開発成果を得ることを目標に共同開発を進めております。

なお、当連結会計年度の研究開発費は、前連結会計年度比20.2%増の84,920百万円(売上高比7.4%)であります。

7【財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

文中の将来に関する事項は、平成28年3月31日現在において判断したものであります。

(1)重要な会計方針

重要な会計方針とは、その適用にあたり不確実な事象について見積もりを要し、経営者の主体的、複雑かつ高度な判断が要求される会計方針であります。

以下は、会計方針を網羅的に記載したものではありません。主要な会計方針については、連結財務諸表の注記(注1)に詳しく開示しております。多くの場合、特定取引の会計処理方法は米国において一般に公正妥当と認められる会計原則で規定され、経営者の判断は必要とされません。また、経営者の判断の余地があっても、その選択の結果で大きな違いは生じません。

当社グループは、重要な会計方針として長期性資産の減損、たな卸資産の評価、企業結合の会計、のれん及びその他の無形固定資産、年金費用、並びに繰延税金資産の評価を認識しております。

長期性資産の減損

平成27年3月31日及び平成28年3月31日現在、当社グループの有形固定資産及び償却無形固定資産の総額はそれぞれ467,893百万円及び526,400百万円であり、総資産のそれぞれ33.3%及び36.3%に相当します。当社グループは、その回収可能性が経営成績に及ぼす影響の大きさを考慮し、長期性資産の減損は当社の連結財務諸表にとって重要であると認識しております。

当社グループは、有形固定資産及び特定の認識可能で償却期間の定めのある無形固定資産につき、資産の簿価が回収できないという兆候が生じた場合に減損の有無を検討しております。この検討は見積もり将来キャッシュ・フローを使用して行われます。資産が減損したと認められた場合、当該資産の簿価が公正価値を上回る金額が減損額として認識されます。経営者は、キャッシュ・フロー及び公正価値は合理的に見積もられていると判断しておりますが、事業遂行上予測不能の変化に起因して将来キャッシュ・フロー及び公正価値が当初の見積もりを下回った場合、長期性資産の評価に不利な影響が、また、当社グループの財政状態及び経営成績に重要な影響が生じる可能性があります。当社グループは、製品の将来の収益性や回収可能性を十分考慮した上で投資を行っております。

たな卸資産の評価

たな卸資産は、低価法により評価しております。予想される陳腐化について、将来の需要予測に基づき、取得価格と見積もり市場価格の差額がたな卸資産の簿価から減額されます。当社グループは、過去の需要や将来の予測に基づき、たな卸資産の過剰及び陳腐化の可能性を考慮し簿価の見直しを行っております。さらに、既存及び予想される技術革新の要求は、たな卸資産の評価に影響を与えます。見積もり(たな卸資産陳腐化による簿価調整の基礎となるもの)の変動が当社グループの経営成績に影響を与えるため、たな卸資産の評価は重要な会計方針とみなされます。実際の需要が予想されたものより著しく低い場合は、たな卸資産の過剰及び陳腐化に関するたな卸資産の評価について追加的な調整が必要となり、当社グループの事業、財政状態及び経営成績に著しく不利な影響を及ぼす可能性があります。

過去の見積もりの妥当性について、当社グループは複数のシナリオを立てる方法ではなく、四半期毎に見積もりと実績を比較し再評価する方法をとっております。例えば、記録デバイス事業のように技術革新がめまぐるしい事業運営においては、顧客が求める高性能製品へのタイムリーな対応が求められており、たな卸資産の陳腐化評価を行い四半期毎に見直しております。

企業結合の会計

当社グループは、取得法を用いて企業結合の会計処理を行っております。取得法では、被結合会社の資産及び負債を取得日のそれぞれの公正価値で計上する必要があります。取得したそれぞれの資産に割り当てられた見積公正価値及び資産償却年数の決定に関する判断は償却費用を通じ、また、その資産が減損している場合には減損費用の計上により、取得後の期間の利益に重大な影響を及ぼします。

当社グループは、無形固定資産の見積公正価値の決定において収益予測を通常利用しています。これに際しては、キャッシュ・フローの動向によるリスクファクターに照らし、最適な割引率を用いた予測将来キャッシュ・フローの割引を採用しています。

無形固定資産の耐用年数の決定に当たっては、区分の異なる無形固定資産はそれぞれの耐用年数を有し、耐用年数が特定できない資産は償却対象外とする必要があります。耐用年数が特定できない無形固定資産は、米国財務会計基準審議会会計基準編纂書 350 に規定された要因に止まらず、当社グループの資産運用状況、有効期間ないしは実負担なしの更新や延長に影響を与える法律ないし契約上の条件、及び需要や競合、その他経済要因に基づいて定期的に再評価されます。

のれん及びその他の無形固定資産

のれん及び明確な耐用年数を有しないその他の無形固定資産は償却することなく、年に一度、もしくは公正価値が簿価を下回る兆候が現れたり状況の変化が生じた都度、減損テストが実施されます。これら資産の公正価値は、承認された事業計画に基づく割引キャッシュ・フローを用いて決定されます。経営者は、将来キャッシュ・フロー及び公正価値の見積もりは合理的であると判断しておりますが、事業遂行上予測不能の変化に起因して将来キャッシュ・フロー及び公正価値が当初の見積もりを下回った場合、当該資産の評価に不利な影響が生じる可能性があります。

年金費用

従業員の年金費用及び給付債務は、保険数理人がそれらの数値を計算する際に使用する基礎率に基づいております。基礎率には、割引率、退職率、死亡率、昇給率、長期期待収益率等が含まれます。使用した基礎率と実際の結果が異なる場合は、その差異が累積され将来期間にわたって償却されます。すなわち、通常、将来期間における費用認識及び帳簿上の債務に影響を与えます。当社グループはこれらの基礎率が適切であると考えておりますが、実際の結果及び基礎率の変更による差異は将来における年金費用及び給付債務に影響を及ぼす可能性があります。

当連結会計年度の連結財務諸表の作成において、当社グループは割引率を国内の制度及び海外の制度においてそれぞれ0.7%及び2.5%、また、長期期待収益率を国内の制度及び海外の制度においてそれぞれ2.3%及び6.6%に設定しております。割引率を設定するにあたっては、現在発行され、かつ予想される年金受給期日に流通している安全性の高い企業発行の債券利回りを参考にしております。当社グループは、投資対象の様々な資産カテゴリーの長期期待運用収益見込みに基づき、長期期待収益率を設定しております。その設定にあたっては、資産カテゴリー別に将来収益に対する予測や過去の運用実績を考慮しております。

割引率の減少は、年金給付債務を増加させ、数理計算上の差異の償却により年金費用の増加をもたらす可能性があります。

長期期待収益率の増加は、期待運用収益の増加により年金費用の減少をもたらす可能性があります。また、期待運用収益と実際運用収益に差異が発生した場合は、次年度以降の利益を増減させる可能性があります。

繰延税金資産の評価

当社グループは、実現可能性の評価に基づいて多額の繰延税金資産を有しております。繰延税金資産の実現可能性を評価するに当たって、当社グループは、繰延税金資産の一部、あるいはすべてが実現しない見込が、実現する見込より大きいかどうかを考慮します。最終的な繰延税金資産の実現は、一時差異が減算できる期間の将来の課税所得の発生に依存します。当社グループは、実現可能性の評価に当たって繰延税金負債の解消の予定、将来の課税所得の見通し及び税計画戦略を考慮しております。過去の課税所得の水準及び繰延税金資産が減算できる期間における将来の課税所得の見通しを考えますと、当社グループは、評価性引当金控除後の繰延税金資産は、実現する見込が実現しない見込より大きいと考えております。しかしながら、将来の利益計画が実現できない、もしくは達成できない場合、または当社グループがその他の要因に基づき繰延税金資産の実現可能性評価を変更した場合、繰延税金資産が実現しないと判断され、繰延税金資産に対する評価性引当金の積み増しが必要となります。

(2)経営成績の分析

連結業績の概要

当連結会計年度の業績は、連結売上高が前連結会計年度比6.4%増の1,152,255百万円、営業利益が同比28.9%増の93,414百万円となりました。当社株主に帰属する当期純利益が同比31.1%増の64,828百万円となりました。

当社の連結業績に影響を与えるエレクトロニクス市場を概観しますと、その生産水準はセット製品(最終財)により異なります。スマートフォンの生産は、中国市場においても引き続き需要が拡大したことにより、前連結会計年度の水準を上回りました。自動車の生産は、米国での堅調な販売に支えられ、前連結会計年度に比べ若干増加しました。一方、パソコンの生産は、Windows XPサポート終了に伴う買い替え需要が底堅く推移した前連結会計年度に比べ減少しました。また、HDDの生産も、データセンター向けの需要は底堅く推移しているものの、パソコンの需要減やパソコン内部のHDDからSSDへの置換えが進んだ影響を受け、前連結会計年度に比べ大幅に下回って推移しました。

その結果、HDD用ヘッドとHDD用サスペンションの売上高は減少するも、スマートフォンを中心とした、ICT市場向けや自動車市場向けでの受注は増加、さらに米ドルに対する円安の影響も含めて増収となりました。

このような経営環境の中、自動車、ICT、産業機器・エネルギーの3分野を重点市場と位置づけ、その中で戦略成長製品としてのセンサ・アクチュエータ、エネルギーユニット、次世代電子部品に今後は経営資源を集中し、一層の収益力向上を進めてまいります。

為替変動の影響

当連結会計年度の海外売上高は、0.7ポイント増加し連結売上高の92.1%となり、当連結会計年度決算の平均為替レートは、前連結会計年度に比べ対米ドルが9.4%の円安、対ユーロは4.5%の円高となりました。当連結会計年度の為替レートの変動による影響は、約853億円の増収、営業利益で約173億円の増益と試算しております。

また、地域別売上高における為替影響額は、日本国内が約146億円、日本を除くアジア・オセアニア地域が約738億円、米州地域が約84億円、欧州地区が約91億円のそれぞれ増収となっており、セグメント間取引消去における影響額を除いた連結売上高に対する為替影響額は、約853億円の増収となっております。

当社と一部の海外子会社は、為替変動リスクを軽減するため、先物為替予約及び通貨スワップ等の契約をしております。営業活動により生じる為替リスクについては、先物為替予約によりヘッジしており、原則として、向こう6ヶ月の範囲で発生すると見込まれる外貨建て売上債権の上限50%を基準にヘッジする方針としております。なお、事業のグローバル化により、為替の変動が連結業績に重大な影響を及ぼす可能性があることを経営者は認識しております。

費用及び当期純利益

当連結会計年度の売上原価は売上高増加により、前連結会計年度の802,225百万円から3.6%増の831,123百万円となりましたが、売上原価率は前連結会計年度の74.1%から72.1%となり2.0ポイント低下しました。中国等の新興国における労務費アップによるコスト上昇、製品に対する強い売価値引き圧力がありましたが、生産性の改善や材料値下げの実施、また、構造改革効果による原価引き下げ及び不採算製品終息による品種構成の改善、さらに売上数量増加が寄与し、売上原価率の低下となりました。その結果、売上総利益は前連結会計年度比40,797百万円(14.6%)増加し、売上高比で27.9%となりました。

当連結会計年度の販売費及び一般管理費は、前連結会計年度の207,876百万円より19,842百万円増加し227,718百万円となりました。また、売上高に対する比率は19.2%から19.8%に0.6ポイント上昇しました。費用増加の主な要因は、円安に伴う為替換算による影響で約82億円増加、及び主要事業における拡販活動費用の増加となります。当連結会計年度の販売費及び一般管理費に占める研究開発費は、前連結会計年度の70,644百万円から20.2%増の84,920百万円となりました。主要事業の開発テーマ推進による費用増加、ならびに円安に伴う為替換算による影響の約16億円によるもので、その結果、売上高に対する比率は前連結会計年度から0.9ポイントの上昇となる7.4%となりました。

当連結会計年度の営業外損益は、前連結会計年度より3,633百万円の悪化となりました。関係会社利益持分損益が737百万円増加した一方、有価証券及び投資有価証券売却損が1,839百万円、投資有価証券評価損が1,417百万円それぞれ増加しました。

当連結会計年度の非支配持分帰属利益は、前連結会計年度の3,339百万円より1,544百万円減少し1,795百万円となりました。当連結会計年度における子会社の支配持分比率の変更等によるものです。

当連結会計年度の当社株主に帰属する当期純利益は64,828百万円となり、その結果、希薄化後1株当たり当社株主に帰属する当期純利益は504.66円となりました。株主資本利益率(ROE)は、7.2%から9.2%に改善しました。

当連結会計年度中に支払われた配当金は1株当たり110円となりました。この配当金は、平成27年6月に支払われた期末配当金1株当たり50円と、平成27年12月に支払われた中間配当金1株当たり60円の合計です。平成28年3月末時点で株主名簿に登録されている株主に対し、平成28年6月30日に1株当たり60円の期末配当金の支払を実施します。

(3)財政状態

平成28年3月31日現在の資産合計は、前連結会計年度末比46,303百万円増加し1,404,282百万円から1,450,585百万円となりました。

手元流動性は、有価証券が1,301百万円減少した一方、現金及び現金同等物が20,364百万円、短期投資が1,873百万円それぞれ増加し、20,936百万円の増加となりました。また、売上債権が11,871百万円減少した一方、有形固定資産が60,385百万円増加しました。

負債合計は、前連結会計年度末比119,677百万円増加し646,275百万円から765,952百万円となりました。

短期借入債務及び一年以内返済予定の長期借入債務が58,062百万円、未払退職年金費用が41,449百万円それぞれ増加しました。

純資産のうち株主資本合計は、前連結会計年度末比63,500百万円減少し738,861百万円から675,361百万円となりました。

その他の利益剰余金が46,349百万円増加した一方、主に外貨換算調整額及び年金債務調整額が減少した結果、その他の包括利益(△損失)累計額が96,403百万円減少しました。

(4)流動性及び資金の源泉

運転資金需要

当社グループの運転資金は、主に製品の製造に使用する原材料や部品の調達に費やされ、製造費用として計上されております。また、人件費の支払や販売活動に伴う広告宣伝費及び物流関連費用等の販売費及び一般管理費についても、運転資金からの重要な支出と捉えております。また、研究開発費における人件費は、重要な割合を占めております。これらの支出に必要となる資金は、主に営業活動により生み出された資金により賄っております。

設備投資

設備投資については、「第3 設備の状況 1 設備投資等の概要」をご参照ください。

資金調達

当社グループは現預金等(現金、預金、短期投資、有価証券)を流動性資金としており、月次連結売上高の2.0ヶ月以上の流動性を維持することを長期間にわたり努めております。平成28年3月31日現在の流動性資金の残高は円換算で307,432百万円であり、年間平均売上高の3.2ヶ月相当となっており流動性は十分に確保しております。

当社グループの当連結会計年度における投資活動によるキャッシュ・フローは、140,585百万円の支出となりました。当社グループにおいて、平成27年3月31日現在、普通社債及びリース債務を除く長期借入債務を112,768百万円、普通社債を13,000百万円、及び短期借入債務を136,098百万円有しておりましたが、当連結会計年度において普通社債及びリース債務を除く長期借入債務が借入等により39,530百万円、短期借入債務が22,585百万円それぞれ増加しております。当社グループの借入の詳細については、連結財務諸表 注記(注5)短期借入債務及び長期借入債務の項をご参照ください。

資金管理

運転資金や設備投資資金は、日常の業務活動によって生み出される資金で賄うことを原則としております。資金効率向上のため、日本、米国、欧州及び中国でCMS(キャッシュ・マネジメント・システム)を導入し、資金はできる限り本社機能で集中管理しております。運転資金や設備投資資金を自己資金で賄えない子会社については、できる限りグループ内の資金を活用することにしております。また、手元資金については安全性や流動性を重視することを基本に運用しております。