第2 【事業の状況】

 

1 【業績等の概要】

(1) 業績

当期の世界経済は、米国では堅調な個人消費が景気を牽引した。欧州経済は緩やかな回復基調にあるものの、地政学リスクなどの景気下押し要因が残存している。中国経済は緩やかに減速した。新興国経済は全体として持ち直しの動きがみられるが、金融市場・為替の動揺による景気下振れリスクが残る。

わが国経済は、一部に弱さもみられるが、企業収益の改善、輸出の持ち直しを背景に緩やかな回復基調が続いた。

このような事業環境のもと、当社グループは、平成32年度を目標年度とする戦略経営計画“FUSION20(フュージョン・トゥエンティ)”初年度における成果創出に向けて、平成28年のグループ年頭方針を「一人ひとりが足場を固め、強みを磨いて、大きく前進しよう」と定め、特に世界各地域での空調主要製品の販売拡大や、全社を挙げてのコストダウンに取り組み、売上高・利益の確保に努めた。

当期の業績については、中国元・米ドル・ユーロ等に対して円高が進行したことにより、円貨換算額の減少等のマイナス影響があったが、各地域での空調事業は好調に推移したことから、売上高は2兆439億68百万円(前期比0.0%増)となった。利益面では、円貨換算による減益要因はあったものの、各地域での販売数量増加とコストダウンによる粗利率改善もあり、営業利益は2,307億69百万円(前期比5.9%増)、経常利益は2,310億13百万円(前期比10.2%増)、親会社株主に帰属する当期純利益は1,539億38百万円(前期比12.4%増)となった。

当連結会計年度のキャッシュ・フローについては、営業活動では、税金等調整前当期純利益の増加及び法人税等の支払額の減少等により、前連結会計年度に比べて414億77百万円増加し、2,676億63百万円のキャッシュの増加となった。投資活動では、連結子会社買収による支出の増加等により、前連結会計年度に比べて233億30百万円減少し、1,288億23百万円のキャッシュの減少となった。財務活動では、長期借入れによる収入の増加等により、前連結会計年度に比べて118億78百万円増加し、735億43百万円のキャッシュの減少となった。これらの結果に為替換算差額を加えた現金及び現金同等物の当連結会計年度末残高は、前連結会計年度末に比べて528億88百万円増加し、3,440億93百万円となった。

また、有利子負債については、短期借入金の増加等により、前連結会計年度に比べて4億50百万円増加し、6,094億30百万円となったが、現金及び預金の増加等により総資産が増加したため、有利子負債比率(有利子負債/総資産)は、27.8%から25.9%へ減少した。

 

セグメントごとの業績を示すと、次のとおりである。

 

①  空調・冷凍機事業

空調・冷凍機事業セグメント合計の売上高は、前期比0.4%増の1兆8,353億76百万円となった。営業利益は、前期比7.7%増の2,087億49百万円となった。

国内業務用空調機器の業界需要は、上期での西日本での猛暑影響と省エネルギー性の高い設備更新への政府補助金制度による需要の押し上げもあり、前期を上回った。当社グループも、店舗・オフィス用エアコン『FIVE STAR ZEAS(ファイブスタージアス)』及び『Eco-ZEAS(エコジアス)』を中心に需要を取り込み、売上高は前期を上回った。

国内住宅用空調機器の業界需要は、西日本の猛暑影響による上期からの堅調な需要が第3四半期以降も持続し、前期を上回った。当社グループも、省エネ・高付加価値商品『うるさら7(セブン)』のブランド力を活かし、全シリーズでの販売拡大に取り組み、前期を上回る売上高となった。

欧州では、販売は堅調に推移したが、地域全体の円貨換算後の売上高は前期並みとなった。住宅用空調機器は、平成27年の猛暑を契機に拡大した需要が当期も堅調に推移する中、現地通貨での売上高は前期を上回った。業務用空調機器においても、欧州経済が伸び悩む中、主要各国において空調機器の更新需要を獲得することで販売は好調に推移し、現地通貨での売上高は前期を上回った。また、ヒートポンプ式温水暖房機器は、大市場のフランスで需要が停滞したが、イタリア等で販売を大きく伸ばし、欧州全体での現地通貨での売上高は前期を上回った。

 

中東・アフリカでは、販売は堅調に推移したが、地域全体の円貨換算後の売上高は前期を下回った。原油価格低迷の長期化や地政学リスクの高まりにより、特に政府系大型プロジェクトの一時停止や延期が相次ぐ中、民間物件の受注を強化し、現地通貨での売上高は前期を上回った。トルコでも、7月のクーデター未遂以降、政情不安が継続し、大型物件を中心に納期の延期等が相次いだが、業務用中小物件の受注強化や住宅用空調機器の販売強化により、現地通貨での売上高は前期を上回った。

中国では、経済成長は減速傾向にあるが、当社グループは、堅調な個人消費を取り込むため小売・街売を強化し、現地通貨での売上高は全地域・全製品で前期を上回った。一方、人民元安の影響により円貨換算後の売上高は前期を若干下回ったが、生産部門でのコストダウンを推進し、営業利益は前期を上回った。住宅用市場では、独自の専売店「プロショップ」を中心に当社グループの強みである提案力・工事力を活かし、顧客に様々な生活スタイルを提案する住宅用マルチエアコン「ニューライフマルチシリーズ」で中高級住宅市場を中心に販売を拡大した。業務用市場では、主力の業務用マルチエアコン『VRV-X』のモデルチェンジにより省エネ性などの商品力を高め、設計事務所へのPR・スペックインを強化し、新築から更新まで幅広く対象市場を拡げ、販売を拡大した。大型ビル(アプライド)空調機器市場では、商品ラインナップの拡充、サービス事業の強化により、大型物件から中小物件まで幅広く営業活動を展開し、販売を拡大した。

アジア・オセアニアでは、地域全体の円貨換算後の売上高は前期並みとなったが、販売店開発の推進、地域ニーズを捉えた省エネ差別化商品の拡販、サービス体制の強化等により、拡大する中間層の需要を取り込み、現地通貨での売上高は前期を大きく上回った。住宅用空調機器では、省エネ性能に優れた冷房専用インバータ機の販売が好調に推移し、特に、タイ・ベトナム・インドネシア・インドで拡販した。ビル用マルチエアコンでは、スペックイン活動の強化、販売店の育成に注力し、販売を拡大した。

米州では、販売は堅調に推移し、地域全体の売上高は前期を上回った。住宅用空調機器は、上期の好天影響に加え、販売網の拡大に取り組んだ結果、売上高は前期を上回った。ライトコマーシャル機器(中規模ビル向け業務用空調機器)は、ルート別の販売施策を展開し、売上高は前期を上回った。アプライド分野は、前期を上回る需要水準の中、インバータルーフトップ等のアプライド機器の販売を拡大し、また、サービス事業も伸ばし、売上高は前期を上回った。

舶用事業は、海上コンテナ冷凍装置及び舶用エアコンの需要減少に伴う販売減少により、売上高は前期を下回った。

 

②  化学事業

化学事業セグメント合計の売上高は、前期比3.4%減の1,567億54百万円となった。営業利益は、前期比11.2%減の183億2百万円となった。

フッ素樹脂は、国内・アジアの半導体関連需要は堅調に推移したものの、為替が円高に振れたことに加え、米国市場における競合他社や中国生産品の低価格販売及びLAN電線市場での競争激化の影響もあり、フッ素樹脂全体での売上高は前期を下回った。また、フッ素ゴムについては、世界各地域で自動車関連分野での需要が堅調であったものの、同様に為替の影響が大きく、売上高は前期を下回った。

化成品のうち、撥水撥油剤は、新商品への切替え遅れの影響等により販売が伸びず、さらには為替の影響もあり、売上高は前期を大きく下回った。タッチパネル等に用いられる表面防汚コーティング剤は、中国での好調な需要に支えられ、売上高は前期を上回った。半導体洗浄用途向けのエッチャントは、関連需要が好調な日本・アジアでの販売が伸長し、売上高は前期を上回った。化成品全体では売上高は前期を下回った。

フルオロカーボンガスについては、米州でのアフターサービス向けの販売が伸長し、ガス全体の売上高は前期を大きく上回った。

 

③  その他事業

その他事業セグメント合計の売上高は、前期比2.9%減の518億37百万円となった。営業利益は、前期比6.2%増の37億49百万円となった。

産業機械用油圧機器は、国内市場の需要停滞の影響により、売上高は前期を下回った。建機・車両用油圧機器は、国内及び米国主要顧客向け販売が堅調に推移したが、中国農業機械メーカーの生産調整の影響により、売上高は前期並みとなった。

特機部門では、在宅酸素医療用機器の販売は堅調に推移したが、防衛省向け砲弾の売上高が減少したことにより、売上高は前期を下回った。

電子システム事業では、設計・開発分野向けデータベースシステムを中心に拡販を進め、売上高は前期並みとなった。

 

 

2 【生産、受注及び販売の状況】

(1) 生産実績

当連結会計年度における生産実績をセグメントごとに示すと、次のとおりである。

 

セグメントの名称

生産高(百万円)

前年同期比(%)

空調・冷凍機事業

1,412,228

4.6

化学事業

140,176

△3.6

その他事業

46,995

△3.0

合計

1,599,400

3.6

 

(注) 1  金額は販売価格による。

2  上記の金額には、消費税等は含まれていない。

 

(2) 受注状況

当社グループの製品は、大部分見込み生産であるため、受注高及び受注残高の記載は省略した。

 

(3) 販売実績

当連結会計年度における販売実績をセグメントごとに示すと、次のとおりである。

 

セグメントの名称

販売高(百万円)

前年同期比(%)

空調・冷凍機事業

1,835,376

0.4

化学事業

156,754

△3.4

その他事業

51,837

△2.9

合計

2,043,968

0.0

 

(注) 1  セグメント間の取引については相殺消去している。

2  いずれの相手先についても総販売実績に対する割合が100分の10未満のため、相手先別の販売実績及び総販売実績に対する割合の記載を省略した。

3  上記の金額には、消費税等は含まれていない。

 

3 【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において、当社グループが判断したものである。

 

(1)会社の経営の基本方針

当社は、経営の基本となる考え方を示す「グループ経営理念」の下に、高品質の商品、素材、サービスを通じ、お客様に最高の利便性と快適性を提供し続ける企業として、技術基盤の向上に挑戦するとともに、資本の論理の経営を徹底し、企業価値の最大化を目指す。また、高い倫理性と公正な競争をベースとしたフェアな企業活動、タイムリーで適切な情報開示と説明責任の遂行、地球環境への積極的対応、地域社会への積極的貢献などを、グループ共通の行動指針とし徹底して実行するとともに、グループ内での情報の共有化の徹底や時々の課題解決に最適な柔構造の組織運営の徹底など、当社の良き伝統である「フラット&スピードの経営」の一層の高度化を図り、グループ全体の収益力向上、事業拡大に全力を尽くしていく。

 

(2)目標とする経営指標

企業価値の最大化を経営の最重要課題のひとつとして位置づけ、FCF(フリーキャッシュフロー)、DVA(ダイキン流経済的付加価値)、ROA(総資本利益率)、ROE(株主資本利益率)など「率の経営」指標を経営管理の重要指標として、積極的な事業展開と経営体質の強化を推進している。特に企業価値の源泉であり、同時に全ての管理指標を向上させる総合指標としてFCFを最重視し、収益の増加、投資効率向上策にあわせて、売上債権及び在庫の徹底圧縮など運転資本面からもキャッシュフローを創出すべく取り組んでいく。

 

 

(3)中期的な会社の経営戦略

本年(平成28年)、当社グループは、平成32度を目標年度とする戦略経営計画“FUSION20(フュージョン・トゥエンティ)”を策定した。新興国を中心とする需要の拡大や気候変動への影響など世界の様々な課題を踏まえながら、空調や化学など既存事業の強化と、事業領域の拡大や事業構造の転換に挑戦して、環境・省エネを初めとした顧客・社会の課題解決に貢献する新しい価値を生み出し、事業を通じて社会の持続可能な発展に貢献していく。

 

(4)企業集団の対処すべき課題

今後の世界経済については、米国は個人消費が景気を牽引するほか、欧州経済も緩やかな回復基調を維持する見通しである。新興国経済は、中国景気は力強さを欠くものの、全体として景気は拡大基調にある。わが国経済は、設備投資や輸出の拡大により底堅く推移する見通しである。

このような事業環境のもと、当社グループは、本年(平成29年)のグループ年頭方針を「揺るぎない基軸に、新たな力を融合し、グループ一丸で企業価値を高めよう」と定め、先行き不透明な世界情勢の中、成果創出を目指していく。

具体的には、継続的に取り組んでいる販売力・営業力の強化、商品開発・生産・調達・品質力の向上、人材力強化などに磨きをかけ、さらなる成長に向けたテーマを推進するとともに、固定費の削減にも取り組んでいく。中でもテクノロジー・イノベーションセンターを中心に世界主要拠点での差別化技術・商品の創出を加速していくなど、中長期での持続的発展に向けた事業拡大に努めてまいる所存である。

 

 

4 【事業等のリスク】

当社グループの財政状態、経営成績等に影響を及ぼす可能性のあるリスクには以下のようなものがある。

なお、以下に記載の内容は、当連結会計年度末現在において判断したものである。

 

(1) 主要市場での政治・経済状況及び製品需給の急激な変動

当社グループは、開発・生産・販売・調達などの事業活動をグローバルに展開しており、事業を展開している各々の地域・市場における政治・経済動向や、より厳しい環境規制の導入、競合他社との競争激化、素材価格の高騰等の事業環境の変化は、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性がある。

また、当社はグッドマン社(平成24年度買収完了)などを始めとする企業買収や海外代理店の買収、生産拠点の設立などの投資・出資を行い、生産・販売網のさらなる拡充とグループ全体の収益向上を図っているが、その進捗状況によっては当社グループの業績に影響を及ぼす可能性がある。

 

(2) 冷夏及び天候不順に伴う空調需要の変動

当社グループの事業内容は、空調・冷凍機事業が連結売上高の89.8%を占めていることから、世界の主要マーケットでの気象情報や需要動向の把握に努めるとともに、その変化に対して影響を最小限にとどめるべくフレキシブルな生産方式や販売政策を採っているが、冷夏及び天候不順に伴う空調需要の変動の大きさによっては業績に影響を及ぼす可能性がある。

 

(3) 為替相場の大幅な変動

当社グループの連結売上高に占める海外売上高の割合は平成29年3月期74.6%であり、今後もグローバル展開の加速により、海外売上高の割合がさらに増加する見込みである。連結財務諸表の作成にあたっては、各地域における売上、費用、資産を含む現地通貨建ての項目を円換算している。従って、換算時の為替レートにより、これらの項目は、各地域の現地通貨における価値が変わらなかったとしても円換算後の価値が影響を受けることになる。また、部材の調達、商品やサービスについて外貨建てで取引しているものもあり、為替動向によって製造コストや売上高に影響する可能性がある。当社グループでは、これらの為替リスクを回避するため、短期的には為替予約等によりリスクヘッジを行っており、中長期的には為替変動に連動した最適調達・生産分担の構築、通貨毎の輸出入バランス化等により為替変動に左右されない体質の実現に取り組んでいるが、これにより当該リスクを完全に回避できるものではない。

 

(4) 重大な品質クレーム

当社グループでは国内外を問わず生産する全ての商品について、万全の品質管理に努めている。

新商品の開発については、設計・生産技術・購買・サプライヤーを開発の前段階から巻き込んだ四位一体となった同時並行の協業展開へとプロセスの革新を進め、品質、コスト、さらには開発スピードの革新を図っている。また、予期せぬ品質クレームに備え賠償保険に加入しているが、重大な品質クレームが発生した場合には当社グループの業績に影響を及ぼす可能性がある。

 

(5) 重大な生産トラブル

当社グループでは国内外を問わず全ての工場の設備の予防保全に努めるとともに、特に化学事業については、設備の安全審査、保安管理体制等の強化を図っている。また、生産トラブルに関しては、設備の損傷や逸失利益のための保険に加入しているが、重大な生産トラブルが発生した場合には当社グループの業績に影響を及ぼす可能性がある。

 

 

(6) 保有する有価証券の時価の大幅な変動

当社グループの保有する有価証券は、主に取引先との相互の事業拡大や取引関係の強化のために保有しているものであるが、株式市況の動向や取引先の経営破綻等によって当社グループの業績に影響する可能性がある。

 

(7) 固定資産の減損

当社グループは、事業用の資産や企業買収の際に生じるのれんなど様々な有形・無形の固定資産を計上している。これらの資産については、今後の業績動向や時価の下落等によって、期待されるキャッシュ・フローを生み出さない状況により、減損処理が必要となる場合がある。これらの処理が発生した場合には、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性がある。

 

(8) 自然災害

地震・台風・洪水等の自然災害が発生した場合、当社グループの生産、販売、物流拠点に影響が出ることで、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性がある。

 

5 【経営上の重要な契約等】

提出会社

(1) 合弁契約

 

相手先

国名

契約内容

契約期間

アルケマ アジア エスエイエス

フランス共和国

HFC125の製造・販売に関する合弁契約

自  平成19年8月1日
至  合弁会社設立から50年後

アルケマ チャイナ インベストメント カンパニー リミテッド

中華人民共和国

アルケマ アジア エスエイエス

フランス共和国

新冷媒の販売に関する合弁契約

自  平成19年8月1日
至  合弁会社設立から50年後

中蛍集団有限公司

中華人民共和国

無水フッ酸の製造・販売に関する合弁契約

自  平成19年8月14日
至  合弁会社設立から50年後

珠海格力電器股有限公司

中華人民共和国

空調機用基幹部品の製造・販売に関する合弁契約

自  平成21年2月18日
至  合弁会社設立から20年後

珠海格力電器股有限公司

中華人民共和国

金型の製造・販売に関する合弁契約

自  平成21年2月18日
至  合弁会社設立から20年後

ダンフォス パワー ソリューションズ インク

アメリカ合衆国

建機車両用油圧機器の製造・販売に関する合弁契約

自  平成24年10月30日
至  定めなし

 

 

 

6 【研究開発活動】

当社グループは、世界規模での地球温暖化やエネルギー問題への関心の高まりを受け、地球環境問題に対して積極的に貢献し事業拡大するべく、先端的な研究開発に取り組んでいる。

一昨年(平成27年)には、ダイキングループの技術・商品開発の中核施設として、グループ内はもちろんのこと、産産・産学・産官協業など世界中の知恵を融合し、最先端のコア技術・基盤技術の研究開発と、顧客に新しい付加価値を提供する差別化商品の開発を行うテクノロジー・イノベーションセンター(TIC)を開所した。

TICには、従来、空調におけるヒートポンプ技術、インバータ技術に加え、環境建築・再生可能エネルギー領域、材料加工領域での新商品開発に取り組んできた環境技術研究所と、最先端のIT(情報技術)活用により、空調制御システムの開発と空調を軸とした省エネソリューションビジネスの研究を行ってきたソリューション商品開発センターを統合した。また、空調生産本部で空調商品の開発に携わる技術者や、化学研究開発センターでフッ素の新たな用途開発、高機能材料、環境社会に適合する材料の開発に取り組んでいた技術者の一部も糾合した。

また、欧州・中国をはじめ、グローバル各拠点の開発機能も強化しており、国内の研究開発部門で生み出した新技術を利用し、現地ニーズに合った商品の開発を行っている。

これらの取組みにより、研究開発の大幅な効率化とスピードアップを図り、グローバル各地域で差別化商品を生み出していく。

 

当連結会計年度におけるグループ全体の一般管理費及び当期製造費用に含まれる研究開発費は、538億70百万円であり、当連結会計年度における各事業別の主要な取り組みと成果及び研究開発費は次の通りである。

 

①  空調・冷凍機事業

住宅用空調機器の壁掛形エアコン『うるさら7』において、吹出しの風が人に直接当たりにくい快適な気流制御「冷房時:サーキュレーション気流、暖房時:垂直気流」を実現し好評を得ているが、冷房に際して、サーキュレーション気流と垂直気流のコンビネーションを採用する事で人に直接風を当てることなく部屋全体の温度ムラを素早く解消した。これらの気流コントロールと快適性をさらに高める当社独自の無給水加湿技術、冷房除湿コントロールで、包み込むような快適空間を実現した。

住宅用マルチエアコンの壁掛形室内機として「UXシリーズ」を発売した。住宅のインテリアデザインに対する意識の高まりから、工業デザイナーとダイキンヨーロッパ社が「インテリアとの調和」をコンセプトに曲面を基調とした前面パネルを採用し壁との一体感を感じさせるデザインを採用した。また、マルチエアコンに『UXシリーズ』と温水床暖房を接続する事で、デザインに加え連動制御による省エネ性と快適性を実現し一般財団法人省エネルギーセンター主催の平成28年度省エネ大賞を受賞した。

業務用空調機器において、ビル用マルチエアコン『VRV X』シリーズを発売した。今回、冷媒回路の見直しを実施し、低負荷時の運転効率を向上させ年間の消費電力量を大幅に削減した。また、天井カセット形の室内ユニットでは、従来の気流方式を根本から見直した「アクティブサーキュレーション気流」を採用し、足元から暖かく快適な暖房を実現した。さらに、輻射空調や床暖房などの風を感じない空調システムを簡単に導入したいというニーズに応え、冷温水を作り出す「冷温水ユニット」を新たに品揃えした。

アプライド機器においては、北米では、大幅にコスト力を高め、高リフト条件にも対応した次世代磁気軸受ターボ冷凍機の発売を平成28年12月に行った。また、冷凍能力1,500RTの高効率2段式ターボ冷凍機は、業界最高レベルの全負荷パフォーマンスを実現し、平成28年10月に発売した。

中国では、更新需要向けモジュールターボ冷凍機を開発した。チラーは環境ニーズに対応し、DCインバータ冷房専用チラーを平成28年11月に発売し、高効率の空冷磁気軸受チラー・超高効率のヒートポンプチラーを平成28年12月に発売した。

欧州では、業界最高効率を実現したインバータスクリューチラーを開発し、平成28年7月に発売した。また、2次側商品は簡易選定と圧倒的な高効率製品の開発を進め、病院や衛生市場向けのエアハンドリングユニットを平成29年3月に発売した。分散型換気ニーズに向けた天井埋込み型エアハンドリングユニットは平成29年1月に発売した。

 

空調・冷凍機事業に係る研究開発費は、458億87百万円である。

 

②  化学事業

化学事業の研究開発は、豊富なフッ素素材や多岐にわたるフッ素化学関連技術を元に新商品開発及び用途開発を行っている。

フッ素樹脂・ゴムではフッ素材料の得意とする耐熱性や耐薬品性・誘電特性などを活かし、自動車・半導体・ワイヤー&ケーブル(IT分野)などでの差別化新商品研究を行っている。また、フッ素の非粘着性・耐薬品性を活かしたコーティング材料開発、撥水撥油性を活かしたテキスタイル処理剤・カーペット処理剤の開発、さらには含フッ素化合物の機能性を活かした液晶関連材料の開発や、医薬中間体の受託合成研究など、フッ素に関する幅広い研究開発を行っている。

これらの素材開発に加え、周辺事業領域の研究開発や用途開発としてはフィルム等の加工品や他素材との複合材料開発、先端材料研究としてはメディカル分野・光学分野・環境分野などで新たな部材・デバイスビジネスの探索を進めることによってフッ素化学グローバルNo.1、オンリーワンのケミカルソリューション事業展開を目指している。特に電池エネルギー分野では、リチウム二次電池の高容量化・安全性向上にフッ素材料が欠かせないとみて、電解液・添加剤・正極バインダー・ガスケット等の開発に注力している。

冷媒分野では、環境規制対応の次世代冷媒の開発を加速し、今期は従来の冷凍冷蔵機器に多く使用されているR-404Aより地球温暖化係数(GWP)が約62%低く、オゾン破壊係数ゼロ、かつ不燃である新冷媒R-407Hを新たに開発した。今後さらに温暖化係数の低い冷媒開発にも取り組んでいく。

これらの研究開発を加速・推進するべく、化学事業部では新商品開発の確実な実行を担い、TICにおいては、化学事業につながる次世代テーマの探索を実施している。

 

化学事業に係る研究開発費は、62億11百万円である。

 

③  その他事業

油機関連では、大容量シリーズ化と用途開発を進めており、油圧技術とインバータ技術を融合させた商品であるハイブリッド油圧システムの特徴を活かし、従来の油圧システムではなし得ない省エネ性と高機能を実現している。

プレスなどの産業機械向けの「スーパーユニット」は工場の電力削減の切り札として省エネ性で高い評価を得ており、低騒音、発熱低減、タンク油量削減による作業環境改善や環境負荷低減にも寄与している。

また、電動に匹敵する高い応答性と省エネ性を実現した成形機向けの大型システムも市場に投入し、異電圧電源対応などアジア各国、その他の地域特性に合わせた機種シリーズを拡充し、各地域での採用が進んでおり、プレスなど、他の用途でのグローバル展開、拡販も進めている。

さらに、特殊車両用の省エネシステムについても開発を進めており、車両向けの油圧ハイブリッドシステムが実機採用されている。

このように従来油圧システムに加えて、その枠を超えた先進的な環境対応商品をグローバルに提供する商品と技術の開発を進めている。

特機関連では、主に防衛省向け砲弾・誘導弾用部品に関する研究を行っている。

 

その他事業に係る研究開発費は、17億71百万円である。

 

 

7 【財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

以下に記載の内容については、当連結会計年度末現在において判断したものである。

 

(1) 重要な会計方針及び見積り

当社グループの連結財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められている会計基準に基づき作成されている。当連結会計年度末における資産、負債及び純資産の計上、当連結会計年度における収益、費用の計上については、現況や過去の実績に基づいた合理的な基準による見積りが含まれている。

なお、連結財務諸表作成にあたっての重要な会計方針等は、「連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項」に記載のとおりである。

 

(2) 財政状態

①資産

総資産は、2兆3,561億48百万円となり、前連結会計年度末に比べて1,650億43百万円増加した。

流動資産は、現金及び預金の増加等により、前連結会計年度末に比べて931億15百万円増加し、1兆1,598億84百万円となった。

固定資産は、建物及び構築物の増加等により、前連結会計年度末に比べて719億27百万円増加し、1兆1,962億64百万円となった。

 

②負債及び純資産

負債は、支払手形及び買掛金の増加等により、前連結会計年度末に比べて669億4百万円増加し、1兆2,205億39百万円となった。

純資産は、親会社株主に帰属する当期純利益の計上による増加等により、前連結会計年度末に比べて981億39百万円増加し、1兆1,356億9百万円となった。

この結果、自己資本比率は前連結会計年度末の46.3%から47.2%となり、1株当たり純資産額は前連結会計年度末の3,473.54円から3,802.10円となった。

 

(3) 経営成績

①売上高

当連結会計年度の売上高は、前連結会計年度比0.0%増の2兆439億68百万円となった。

空調・冷凍機事業では、円高による円貨換算額の減少影響はあるものの、米州・アジアを中心に海外での販売が好調に推移し、売上高は前連結会計年度比0.4%増の1兆8,353億76百万円となった。

化学事業では、半導体関連や自動車関連等の需要が好調に推移したものの、円高による為替影響等により売上高は前連結会計年度比3.4%減の1,567億54百万円となった。

その他事業全体では、建機・車両用油圧機器は国内及び米国市場で堅調に推移したが、防衛省向け砲弾の売上高が減少したこと等により、売上高は前連結会計年度比2.9%減の518億37百万円となった。

 

②営業費用、営業利益

売上原価は、前連結会計年度比1.4%減少し、1兆3,130億33百万円となった。

販売費及び一般管理費については、前連結会計年度比1.3%増加し、5,001億65百万円となった。研究開発費の増加が主な要因である。

以上の結果、営業利益は前連結会計年度比5.9%増の2,307億69百万円となった。

なお、セグメントの営業損益については、空調・冷凍機事業では、前連結会計年度比7.7%増の2,087億49百万円の営業利益となり、化学事業では、前連結会計年度比11.2%減の183億2百万円の営業利益となり、その他事業は前連結会計年度比6.2%増の37億49百万円の営業利益となった。

 

③営業外損益、経常利益

営業外損益は、為替差損の計上額が減少したこと等により、前連結会計年度に比べて85億79百万円増加し、2億43百万円のプラスとなった。

経常利益は、前連結会計年度比10.2%増の2,310億13百万円となった。

 

 

④特別損益、親会社株主に帰属する当期純利益

特別損益は、関係会社整理損の減少等により、前連結会計年度に比べて29億49百万円増加し、4億3百万円のマイナスとなった。

親会社株主に帰属する当期純利益は、前連結会計年度比12.4%増の1,539億38百万円となった。

 

(4) 流動性及び資金の源泉

営業活動では、税金等調整前当期純利益の増加及び法人税等の支払額の減少等により、前連結会計年度に比べて414億77百万円増加し、2,676億63百万円のキャッシュの増加となった。投資活動では、連結子会社買収による支出の増加等により、前連結会計年度に比べて233億30百万円減少し、1,288億23百万円のキャッシュの減少となった。財務活動では、長期借入れによる収入の増加等により、前連結会計年度に比べて118億78百万円増加し、735億43百万円のキャッシュの減少となった。これらの結果に為替換算差額を加えた現金及び現金同等物の当連結会計年度末残高は、前連結会計年度末に比べ528億88百万円増加し、3,440億93百万円となった。

 

キャッシュ・フロー指標のトレンドは下記のとおりである。

 

 

平成25年3月期

平成26年3月期

平成27年3月期

平成28年3月期

平成29年3月期

自己資本比率(%)

35.6

39.9

45.3

46.3

47.2

時価ベースの自己資本比率(%)

61.9

83.9

103.7

112.1

138.8

キャッシュ・フロー対有利子負債比率 (年)

6.8

3.9

4.1

2.7

2.3

インタレスト・カバレッジ・レシオ(倍)

15.3

18.0

16.8

25.9

26.8

 

 

(注)  自己資本比率:自己資本/総資産

時価ベースの自己資本比率:株式時価総額/総資産

キャッシュ・フロー対有利子負債比率:有利子負債/営業キャッシュ・フロー

インタレスト・カバレッジ・レシオ:営業キャッシュ・フロー/利払い

 

※各指標は、いずれも連結ベースの財務数値により算出している。

※株式時価総額は、期末株価終値×期末発行済株式数(自己株式控除後)により算出している。

※営業キャッシュ・フローは連結キャッシュ・フロー計算書の営業活動によるキャッシュ・フローを使用している。

※有利子負債は、連結貸借対照表に計上されている負債のうち利子を支払っている全ての負債を対象としている。また、利払いについては、連結キャッシュ・フロー計算書の利息支払額を使用している。