第2 【事業の状況】

 

1 【業績等の概要】

(1) 業績

当連結会計年度の世界経済は、総じて安定的な成長が継続した。中国は引き続き景気拡大のテンポが緩やかで、アセアン地域の景気も足踏み状態であったが、米国の景気は着実に回復し、欧州の景気も全体として緩やかに持ち直した。国内経済については、消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動の影響から個人消費や生産で足踏みが見られたものの、雇用や所得の情勢は改善傾向が続き、政策効果の発現もあって、緩やかな景気回復基調が持続した。
 このような事業環境の中で、当社グループは、2014年4月からスタートし2016年度を最終年度とする新たな中期経営課題“プロジェクトAP-G 2016”に基づき、「成長分野での事業拡大」及び「成長国・地域での事業拡大」を要とした成長戦略を実行するとともに、トータルコスト競争力の更なる強化に努めた。
 以上の結果、当社グループの連結業績は、売上高は前連結会計年度比9.4%増の2兆107億円、営業利益は同17.3%増の1,235億円、経常利益は同16.2%増の1,286億円、当期純利益は同19.1%増の710億円となった。

 

セグメント別の業績は、次のとおりである。

 

(繊維事業)

国内では、衣料用途は、消費税率引き上げの影響の長期化を受けて需要が全般的に弱含みで推移する中、糸綿/テキスタイル/製品一貫型ビジネスの推進などによる事業の高度化と拡販に努めた。産業用途は、自動車関連用途向けをはじめとして堅調に推移した。
 海外では、欧州需要の低迷や中国内需の伸び悩みの影響を受けたが、東南アジアや中国のテキスタイル子会社が拡販と高付加価値品へのシフトを進めた。また自動車関連用途向けや新興国における衛生材料向けの出荷が堅調に推移した。
 なお、前連結会計年度末に連結子会社化したToray Chemical Korea Inc.は、増収には寄与したが、連結子会社化に伴うのれん償却等の影響があった。
 以上の結果、繊維事業全体では、売上高は前連結会計年度比13.4%増の8,567億円、営業利益は同5.1%増の556億円となった。

主要な製品の生産規模は、ナイロン糸が前連結会計年度比8.0%増の約507億円(販売価格ベース)、ポリエステル糸が同21.3%増の約673億円(販売価格ベース)、ポリエステルステープルが同111.4%増の約625億円(販売価格ベース)となった。

 

(プラスチック・ケミカル事業)

樹脂事業は、国内では自動車など一部の用途で消費税率引き上げの影響から出荷の伸び悩みが見られたが、全体としては堅調に推移した。海外では中国や米国の子会社で自動車関連用途向けの出荷が拡大した。
 フィルム事業は、太陽電池バックシート用途向けで中国内需の拡大を背景に出荷を拡大し、食品包装用途向けでは高付加価値品の拡販を進めた。一部で価格競争の影響を受けたものの、全体としては堅調に推移した。
 以上の結果、プラスチック・ケミカル事業全体では、売上高は前連結会計年度比5.5%増の4,964億円、営業利益は同32.6%増の239億円となった。

主要な製品の生産規模は、ABS樹脂が前連結会計年度比1.2%減の約779億円(販売価格ベース)、ナイロン樹脂とPBT樹脂が同8.8%減の約232億円(販売価格ベース)、ポリエステルフィルム ルミラー®が同2.0%増の約714億円(販売価格ベース)となった。

 

 

(情報通信材料・機器事業)

大型液晶パネル向けでは、パネルメーカーの生産回復と大画面化の進展に伴い、フィルム・フィルム加工品等の関連材料の出荷が増加した。スマートフォンやタブレット端末の関連材料の出荷は概ね堅調に推移したものの、一部で最終顧客の生産調整の影響を受けた。なお、PDP関連材料の出荷は、主要顧客のPDP事業からの撤退の影響により減少した。また、各材料とも価格競争の影響を受けた。
 以上の結果、情報通信材料・機器事業全体では、売上高は前連結会計年度比0.9%増の2,480億円、営業利益は同0.4%減の245億円となった。

主要な製品の生産規模は、ポリエステルフィルム ルミラー®が前連結会計年度比8.4%増の約688億円(販売価格ベース)となった。

 

(炭素繊維複合材料事業)

航空機需要の拡大や圧縮天然ガスタンクなど環境・エネルギー関連需要の拡大に加え、欧州をはじめとした自動車関連用途向けの需要も好調に推移し、航空宇宙用途や一般産業用途向けに炭素繊維及び中間加工品(プリプレグ)の出荷が拡大した。また、スポーツ用途や産業用途で使用される汎用品の値戻しに取り組んだ。
 なお、前連結会計年度末に連結子会社化したZoltek Companies, Inc.は、増収には寄与したが、連結子会社化に伴うのれん償却等の影響があった。
 以上の結果、炭素繊維複合材料事業全体では、売上高は前連結会計年度比39.7%増の1,584億円、営業利益は同54.9%増の262億円となった。

炭素繊維複合材料の生産規模は前連結会計年度比39.5%増の約1,505億円(販売価格ベース)となった。

 

(環境・エンジニアリング事業)

水処理事業は、グローバルな需要が弱含みに推移する中、海水淡水化向け逆浸透膜などの出荷が増加するとともに、前連結会計年度末に連結子会社化したToray Chemical Korea Inc.が業績に貢献した。
 国内子会社は、エンジニアリング子会社の業績が、プラント工事の進捗により好調に推移した。
 以上の結果、環境・エンジニアリング事業全体では、売上高は前連結会計年度比0.1%減の1,800億円、営業利益は同25.4%増の80億円となった。

 

(ライフサイエンス事業)

医薬事業は、血液透析患者向けの経口そう痒症改善剤レミッチ®*の出荷が堅調に推移したが、天然型インターフェロンβ製剤フエロン®は競合の激化から出荷が低調に推移し、経口プロスタサイクリン誘導体製剤ドルナー®は、薬価改定と後発医薬品伸長の影響を受けた。また、ライセンス収入が減少した。医療機器事業は、ダイアライザーの出荷が堅調に推移した。
 以上の結果、ライフサイエンス事業全体では、売上高は前連結会計年度比2.0%減の570億円、営業利益は同27.4%減の41億円となった。

医療機器の生産規模は前連結会計年度比13.5%増の約215億円(販売価格ベース)となった。

 

*レミッチ®は鳥居薬品㈱の登録商標である。

 

(その他)

売上高は前連結会計年度比0.3%増の143億円、営業利益は同4.3%減の19億円となった。

 

(2) キャッシュ・フロー

当連結会計年度における連結ベースの現金及び現金同等物(以下「資金」という。)は、営業活動による資金の増加が投資活動による資金の減少を6億円上回った一方、自己株式の取得による支出を主因に財務活動による資金の減少が100億円となり、為替換算差額を含めると、当連結会計年度末には前連結会計年度末比6億円(0.6%)減の1,125億円となった。

 

 

(営業活動によるキャッシュ・フロー)

当連結会計年度において営業活動による資金の増加は、前連結会計年度比202億円(12.5%)減の1,413億円となった。これは、税金等調整前当期純利益が1,145億円(前連結会計年度比167億円増)、減価償却費が815億円(同27億円増)であった一方、売上債権の増加額が339億円(同275億円増)、法人税等の支払額が295億円(同63億円増)であったこと等によるものである。

 

(投資活動によるキャッシュ・フロー)

当連結会計年度において投資活動による資金の減少は、前連結会計年度比742億円(34.5%)減の1,407億円となった。これは、有形固定資産の取得による支出が1,236億円(前連結会計年度比155億円増)であったこと等によるものである。

 

(財務活動によるキャッシュ・フロー)

当連結会計年度において財務活動による資金の減少は、前連結会計年度比515億円増の100億円となった。これは、長期借入れによる資金の調達が369億円(前連結会計年度比1,133億円減)、社債の発行による収入が1,000億円(同800億円増)であった一方、コマーシャル・ペーパーの純減少額が50億円(同150億円減)、長期借入金の返済による支出が1,002億円(同599億円増)、自己株式の取得による支出が201億円(同197億円増)、配当金の支払額が162億円(同1億円減)であったこと等によるものである。

 

2 【生産、受注及び販売の状況】

当社グループ(当社及び連結子会社)の生産・販売品目は広範囲かつ多種多様であり、同種の製品であっても、その形態、単位等は必ずしも一様ではなく、また受注生産形態をとらない製品も多いため、セグメントごとに生産規模及び受注規模を金額あるいは数量で示すことはしていない。

このため生産、受注及び販売の状況については、「1 業績等の概要」における各セグメントの業績に関連付けて示している。

 

3 【対処すべき課題】

当社は、2011年2月に、10年間程度の期間を見据えた長期経営ビジョン“AP-Growth TORAY 2020”を策定した。“AP-Growth TORAY 2020”では、グローバルな事業拡大を一層推進するとともに、グリーンイノベーション事業の拡大に注力していくことで、「持続的に事業収益拡大を実現する企業グループ」、「社会の発展と環境の保全・調和に積極的な役割を果たす企業グループ」、そして「全てのステークホルダーにとって高い存在価値のある企業グループ」を目指している。

2014年2月には、2014年度から2016年度の3ヵ年を対象期間とする新たな中期経営課題“プロジェクトAP-G 2016”を策定し、成長戦略の推進と収益基盤の強化に努めることで、業績の更なる向上を目指している。グリーンイノベーションとライフイノベーションという二つの成長分野において、当社グループの持つコア技術・要素技術やグローバルな事業基盤を活かして事業拡大を進める。また、新興国をはじめ成長が期待される国・地域の需要を当社グループの収益として最大限に取り込んでいくために、アジア・アメリカ・新興国において、新たな事業拠点の設置を含めた積極的な事業展開を進めていく。

当社グループは、すべての製品の元となる素材には、社会を本質的に変える力があるという信念の下、常に世界に先駆けた技術革新に挑戦し、最先端の技術や新素材を生み出し事業化することを目指している。そして、企業活動のあらゆる場面で現場力を重視し、徹底的な現状把握と現状分析に基づいて問題を克服していくことで、企業理念である「わたしたちは新しい価値の創造を通じて社会に貢献します」を具現化していく。

 

 

4 【事業等のリスク】

「第2 事業の状況」、「第5 経理の状況」等での記載事項に関して、投資家の判断に重要な影響を及ぼす可能性のある主要なリスクは、以下のとおりである。当社グループは、日常的にこれら潜在するリスクからの回避、又はその影響の低減に努めるとともに、不測の事態が発生した場合には迅速な対応と的確な情報開示を実施しうる体制を構築すべく努めている。なお、以下は当社グループに関する全てのリスクを網羅したものではなく、事業等のリスクはこれらに限定されるものではない。また、文中の将来に関する事項は、有価証券報告書提出日(2015年6月24日)現在において当社グループが判断したものである。

 

(1) 国内外の需要、製品市況の動向等に関わるリスク

当社グループは基礎素材製品を広範な産業に供給しており、世界的あるいは地域的な需給環境の変動や素材代替の進行、取引先の購買方針の変更等により当社グループの製品に対する需要が急速に減退する可能性がある。また、当社グループの様々な事業は他企業との厳しい競争状態にあり、新規参入の脅威に曝されているものもあるほか、医薬・医療事業には薬価並びに償還価格改定による価格変動要因がある。当社グループは持続的に競争優位の確保に努めているものの、これら製品の需要が減少あるいは価格が下落した場合、あるいは取引先の与信リスクが顕在化した場合、当社グループの業績及び財務状況が悪影響を被る可能性がある。

 

(2) 原燃料価格の上昇に関わるリスク

当社グループが使用する石油化学原料や燃料は、価格が大きく変動することがあり、これら原燃料の価格上昇分を製品価格に十分に転嫁できない場合、あるいは品種転換による採算の改善が困難な場合、当社グループの業績及び財務状況が悪影響を被る可能性がある。

 

(3) 設備投資、合弁事業・提携・買収等に関わるリスク

当社グループは広範囲にわたる事業領域で設備投資を実施しており、また、第三者との間で様々な合弁事業や戦略的提携、事業買収等を行っている。これら設備投資、合弁事業・提携・買収等の実施にあたっては、事前に収益性や投資回収の可能性について様々な観点から検討を行っているが、必ずしも確実に予期したとおりの成果が得られるという保証があるわけではなく、事業環境の急変などにより、予期せぬ状況変化や所期の事業計画からの大幅な乖離が生じた場合、固定資産の減損損失や持分法投資損失等が発生し、当社グループの業績及び財務状況に悪影響を与える可能性がある。

 

(4) 為替相場の変動、金利の変動、有価証券等の価値の変動等に関わるリスク

当社グループの海外事業の現地通貨建て財務諸表の各項目は、円換算時の為替レート変動の影響を受ける。外国通貨建て取引については、為替予約等によりリスクを軽減させる措置を講じているが、予測を超えた為替変動が当社グループの業績及び財務状況に影響を与える可能性がある。
 また、予期せぬ金利水準の急激な変動やその他の金融市場の混乱、当社グループの保有する有価証券あるいは年金資産の価値の変動等が当社グループの業績及び財務状況に影響を与える可能性がある。

 

(5) 将来予測等の前提条件の変動に伴う退職給付債務や繰延税金資産に関わるリスク

当社の単独及び連結財務諸表は、将来に関する一定の前提を置いた年金数理計算に基づいて退職給付債務を計上しており、また、将来年度の課税所得の見積額に基づき回収可能性を判断したうえで繰延税金資産を計上しているが、年金数理計算に使用する前提条件に変動が生じた場合、あるいは将来の課税所得の見積額に変動が生じた場合、当社グループの業績及び財務状況に影響を与える可能性がある。

 

 

(6) 海外での事業活動に関わるリスク

当社グループは、アジア・欧州・米国をはじめ海外で広く事業を展開しているが、各地域において以下のようなリスクがあり、これらの事象が発生した場合、当社グループの業績及び財務状況が悪影響を被る可能性がある。

①不利な影響を及ぼす租税制度の変更等の予期しない諸規制の設定又は改廃

②予期しない不利な経済的又は政治的要因の発生

③テロ・紛争等による社会的混乱 など

 

(7) 製造物責任に関わるリスク

当社グループは、世界最高水準の品質を追求しているが、予期し得ない重大な品質問題が発生する可能性は皆無ではなく、そうした重大事態が発生した場合、当社グループの業績及び財務状況が悪影響を被る可能性がある。

 

(8) 訴訟に関わるリスク

当社グループが広範な事業活動を展開する中で、知的財産権、製造物責任、環境、労務等、様々な訴訟の対象となるリスクがある。重大な訴訟が提起された場合、当社グループの業績及び財務状況が悪影響を被る可能性がある。

 

(9) 法規制、租税、競争政策、内部統制に関わるリスク

当社グループは、事業活動を行っている各国及び地域において、環境、商取引、労務、知的財産権、租税、為替等の各種関係法令、投資に関する許認可や輸出入規制、独占禁止法に基づく競争政策等の適用を受けている。当社グループは内部統制システムの整備・維持を図り各種法令等の遵守に努めているが、新たな環境規制や環境税の導入、法人税率の変動等これらの法令の改変があった場合や各種法令に違反したと判定された場合、公正取引委員会による行政処分を受けた場合や税務当局から更正通知を受領した場合、あるいは従業員による不正行為があった場合や財務報告に係る内部統制の有効性が維持できなかった場合、当社グループの業績及び財務状況が悪影響を被る可能性がある。

 

(10) 自然災害・事故災害に関わるリスク

当社グループは、「安全・防災・環境保全」をあらゆる経営課題に優先し、生産活動の中断による損害を最小限に抑えるため、製造設備の定期的な防災点検及び設備保守、また安全活動を推進しているが、突発的に発生する災害や天災、不慮の事故等で製造設備等が損害を受けた場合や原材料等の供給不足が生じた場合、電力・物流をはじめとする社会インフラの機能が低下した場合等には、当社グループの業績及び財務状況が悪影響を被る可能性がある。

 

(11) 情報セキュリティに関わるリスク

当社グループが事業活動を行う上で、情報システム及び情報ネットワークは欠くことのできない基盤であり、構築・運用に当たっては十分なセキュリティの確保に努めているものの、不正侵入、情報の改ざん・盗用・破壊、システムの利用妨害などにより業務の停滞や信用の低下が生じた場合、あるいは機密情報が社外に流出した場合等には、当社グループの業績及び財務状況が悪影響を被る可能性がある。

 

 

5 【経営上の重要な契約等】

 

契約会社名

相手方の名称

国名

契約の内容

内容

契約期間

東レ株式会社

E.I.DuPont de
Nemours and Co.

アメリカ

ポリイミドフィルム等を製造・販売する合弁会社東レ・デュポン㈱の設立及び運営

1963年2月22日から
合弁会社の存続する期間

東レ株式会社

Dow Corning Co.

アメリカ

シリコーン製品等を製造・販売する合弁会社東レ・ダウコーニング㈱の運営

2005年4月19日から
合弁会社の存続する期間

東レ株式会社

Invista, Inc.

アメリカ

ポリウレタン弾性繊維を製造・販売する合弁会社東レ・オペロンテックス㈱の運営

2003年5月1日から
合弁会社の存続する期間

Toray Composites
(America), Inc.

Boeing Co.

アメリカ

炭素繊維複合材料の供給

2005年11月22日から
2021年12月31日まで
(5年間のオプションを含む)

 

 

 

6 【研究開発活動】

当社グループ(当社及び連結子会社)の研究・技術開発は、有機合成化学、高分子化学、ナノテクノロジー、バイオテクノロジーという当社が培ってきたコア技術をベースに、基幹事業である繊維、プラスチック・ケミカル事業の安定収益基盤強化・収益拡大を推進するとともに、成長する重点4領域(①環境・水・エネルギー、②情報・通信・エレクトロニクス、③自動車・航空機、④ライフサイエンス)に絶え間なく革新的先端材料を供給する役割を担っている。また、地球温暖化防止や環境負荷低減に対して、当社グループの総合力を発揮してソリューションを提供する新たな切り口で、さらなる成長を推進していく。
 2014年2月に策定した中期経営課題“プロジェクトAP-G 2016”では、「グリーンイノベーション」と「ライフイノベーション」を重点分野として設定して、革新的新素材・新技術を創出することにより持続的発展を目指す。また、知的財産戦略による参入障壁の構築により技術競争力の優位性を堅持していく。

 

当連結会計年度のセグメント別の研究・技術開発の概要は次のとおりである。

 

(1) 繊維事業

基幹事業としての安定収益基盤の強化と収益拡大に向け、極限技術追求による高機能製品や繊維先端材料の創出・拡大に主眼を置いた研究・技術開発を推進している。その成果として、ナイロンの素材特性を生かすとともに、着用快適性をもたらす様々な工夫を凝らすことで、上質な素材感とサラサラとした爽やかな肌触りを持つナイロン長繊維テキスタイル「サラコナ™」を開発した。また、当社独自のナノスケール加工を用いることで、汚れ付着防止機能を保ちながら、汚れの落ちやすさを大幅に向上させた防汚加工テキスタイル「テクノクリーン®」を開発した。その他、ミクロンレベルで繊維断面を制御できる口金設計技術に加え、製糸時の口金付近の気流制御といった製糸条件の最適化技術を新たに用い、高い吸水拡散性、ソフトな肌触りと透け防止性を特長とするポリエステル原綿「ペンタス®α」を開発した。

(2) プラスチック・ケミカル事業

基幹事業として安定収益基盤の強化と収益拡大、そして持続可能な循環型社会の発展に主眼を置いた研究・技術開発に取り組んでいる。その成果として、最大成形伸度300%という優れた易成形性と耐傷性を両立し、長期間の使用でも光沢感が持続する自己修復コートフィルムを開発した。本開発品は、形状が複雑で強い光沢が要求される電子機器や家電製品、自動車内装用をはじめ、フレキシブルディスプレイの表面材料など、幅広い用途に向けて展開が期待される。また、独自のポリマー設計技術と高精度延伸によるフィルム構造制御技術の融合により、新規高機能PPS(ポリフェニレンサルファイド)フィルムを開発した。本開発により、長期耐熱性や耐加水分解性、耐薬品性、難燃性などの従来の優れた素材特性を維持しながら、PPSフィルム同士や樹脂成形体とだけでなく、金属や繊維シートなどの異素材とも強固に熱接着することが可能になった。

 

(3) 情報通信材料・機器事業

戦略的拡大事業として研究・技術開発に取り組んでいる。その成果として、次世代パワーエレクトロニクスに用いられるシリコンカーバイド(Silicon Carbide、以下「SiC」)トランジスタ向けに、製造工程であるイオン注入プロセスを大幅に簡略化できる感光性耐熱レジストを開発し、SiCダイオードとSiCトランジスタによる「フルSiC」パワー半導体モジュールに対応した材料提供が可能となった。また、投入電力を上げることなく、白色LEDデバイスの輝度を10%以上向上させることが可能な白色LED用蛍光体シートを開発した。蛍光体の高濃度充填による薄膜形成が可能なため、放熱性にも優れており、投入電力を上げて輝度向上が可能である。さらに、蛍光体を均一分散し、膜厚精度にも優れ、白色光の色バラツキを最小化することができる。加えて、本材料は、LEDチップの発光面だけに効率的に蛍光体層を形成できることから、LED製造工程の大幅なプロセスコスト削減にも貢献でき、また、蛍光体の使用量を減らすことができるため、レアアースの使用量削減にも有効となる。

(4) 炭素繊維複合材料事業

当社の代表的ナンバーワン事業であり、戦略的拡大事業として、グリーンイノベーション事業拡大、アジア・新興国及び米州での事業拡大のための研究・技術開発に取り組んでいる。米ボーイング社との間で、新型機「777X」向けに炭素繊維「トレカ®」プリプレグを供給することに基本合意し、加えて、航空宇宙用途における炭素繊維複合材料の適用をさらに促進するため、設計・材料・部品生産に跨がる広範な領域で両社が共同開発を進めることを確認した。また、トヨタ自動車㈱が発売した燃料電池自動車「MIRAI」に、①自動車構造部品向け熱可塑性炭素繊維複合材料(熱可塑CFRP)、②燃料電池電極基材用カーボンペーパー、③高圧水素タンク用高強度炭素繊維の3つの炭素繊維材料が採用された。そのほか、従来の一方向連続繊維を用いたプリプレグ(UDプリプレグ)と同等の力学特性を維持しながら、複雑形状への優れた成形性を達成した新規プリプレグシートUACS(Unidirectionally Arrayed Chopped Strands)を開発した。

(5) 環境・エンジニアリング事業

情報通信材料・機器、炭素繊維複合材料に続く次の収益拡大の柱とするために、重点育成・拡大事業として研究・技術開発に取り組んでいる。水処理関連では、当社が開発・販売している高性能と耐汚染性を両立させた革新的逆浸透(RO)膜が評価され、「日本化学会 第63回(2014年度)化学技術賞」を受賞した。アメニティー関連製品では、高い除去性能を維持しながら1Lを約3分(当社従来品約5分)でろ過するスピード浄水を実現したポット型浄水器の新しいカートリッジを開発した。また、ポット型浄水器「トレビーノ®PT305SV」及び蛇口直結型浄水器「トレビーノ®カセッティ307MX」の2機種が2014年度グッドデザイン賞をダブル受賞した。

(6) ライフサイエンス事業

重点育成・拡大事業として研究・技術開発に取り組んでいる。医薬分野では、当社が製造販売承認を取得し、鳥居薬品㈱が日本国内において販売中の血液透析患者におけるそう痒症改善剤「レミッチ®*カプセル2.5μg」(一般名:ナルフラフィン塩酸塩)について、国内における慢性肝疾患患者におけるそう痒症を適応症とした効能追加にかかる製造販売承認事項一部変更承認申請を行った。本剤は、抗ヒスタミン薬や抗アレルギー薬などとは異なるメカニズムで痒みを抑えることから、既存薬では効きにくい痒みに対しても有効性を示すものと期待される。医療分野では、血液に含まれる微量のタンパク質を高感度で短時間に検出できるタンパク質検出システムとして「RAY-FAST®(レイファースト)」測定装置(研究用)及び、血中に存在し免疫機構に深く関わるタンパク質であるサイトカインIL-6(インターロイキン6)を検出する専用チップ「RAY-FAST®IL-6」(研究用試薬)の販売を開始した。同システムにより、これまで数時間以上を要していた微量タンパク質の検出作業を20分以内に行うことが可能となる。さらに、カテーテルでは発作性心房細動治療用カテーテル・アブレーションシステムの製造販売承認申請を行った。製造販売承認取得後、新製品として販売予定である。

 

*レミッチ®は鳥居薬品㈱の登録商標である。

 

 

上記セグメントに属さない基礎研究、基盤技術開発として、環境関連では、「全ての事業戦略の軸足を地球環境におき、持続可能な低炭素社会の実現に向けて貢献していく」という経営方針の下、革新電池部材、有機薄膜太陽電池の研究・技術開発を推進している。燃料電池電解質膜については、当社炭化水素(HC)膜を使用すれば、白金触媒溶出の抑制により、白金使用量を大幅に削減できるとのデータを得た。これにより、スタックコストの大幅削減が期待できる。また、“プロジェクトAP-G 2016”において推進している「ライフイノベーション事業拡大」として、NEDOの支援による最先端の次世代がん診断システム開発への産学官連携プロジェクトに参画した。本プロジェクトでは、独立行政法人国立がん研究センター(以下、NCC)に蓄積された膨大な臨床情報とバイオバンクの検体、マイクロRNA腫瘍マーカーについての研究成果を基盤として、当社が開発した高感度なDNAチップと、当社とNCCが共同開発した血液中に存在するマイクロRNAバイオマーカーの革新的な探索方法を活用して、体液中のマイクロRNAの発現状態についてのデータベースを構築、網羅的に解析する。この測定技術により、乳がん、大腸がんに加えて膵臓がんや胆道がんなど13種類のがんや認知症の早期発見マーカーを見出し、これらのマーカーを検出するバイオツールを世界に先駆け実用化を目指す。

 

当連結会計年度の当社グループの研究開発費総額は、595億円(このうち東レ㈱の研究開発費総額は445億円)である。セグメント別には、繊維事業に約10%、プラスチック・ケミカル事業に約13%、情報通信材料・機器事業に約19%、炭素繊維複合材料事業に約9%、環境・エンジニアリング事業に約5%、ライフサイエンス事業に約10%、本社研究・技術開発に約34%の研究開発費を投入した。

当連結会計年度の当社グループの特許出願件数は、国内で1,552件、海外で3,096件、登録された件数は国内で614件、海外で1,198件である。

 

 

7 【財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

(1)財政状態

当連結会計年度末の財政状態は、資産の部は、受取手形及び売掛金や、たな卸資産等が増加した結果、流動資産
が前連結会計年度末比975億円増加し、固定資産も有形固定資産や投資有価証券の増加を主因に同1,407億円増加したことから、資産合計では同2,382億円増加の2兆3,579億円となった。

負債の部は、有利子負債が増加したことを主因に前連結会計年度末比1,021億円増加の1兆2,772億円となった。
当連結会計年度末の有利子負債の残高は前連結会計年度末比461億円増加の7,003億円となった。

純資産の部は、純利益の計上による利益剰余金の増加や為替換算調整勘定の変動を主因に、純資産合計で前連結
会計年度末比1,361億円増加の1兆808億円となり、このうち自己資本は9,857億円となった。当連結会計年度末の自己資本比率は、前連結会計年度末比1.3ポイント上昇し41.8%、D/Eレシオは同0.05ポイント改善し0.71となった。

当連結会計年度のキャッシュ・フローの状況は、「1 業績等の概況(2)キャッシュ・フロー」に記載のとおり
であり、営業活動によるキャッシュ・フローから投資活動によるキャッシュ・フローを差し引いた当連結会計年度のフリー・キャッシュ・フローは、前連結会計年度比540億円増加し、6億円の資金収入となった。

なお、キャッシュ・フロー関連指標の推移は下記のとおりである。

 

回次

第130期

第131期

第132期

第133期

第134期

決算年月

2011年3月

2012年3月

2013年3月

2014年3月

2015年3月

自己資本比率(%)

37.8

39.7

41.8

40.5

41.8

時価ベースの自己資本比率(%)

62.9

63.3

59.8

52.4

68.3

キャッシュ・フロー対有利子負債比率

3.8

4.6

5.3

4.1

5.0

インタレスト・カバレッジ・
レシオ

19.7

17.7

18.1

32.5

22.5

 

(注)1 時価ベースの自己資本比率:株式時価総額/総資産額

  キャッシュ・フロー対有利子負債比率:有利子負債/営業活動によるキャッシュ・フロー

  インタレスト・カバレッジ・レシオ:営業活動によるキャッシュ・フロー/利払い

  株式時価総額は、期末株価終値×期末発行済株式総数(自己株式控除後)により算出している。

  また、利払いについては、連結キャッシュ・フロー計算書の利息の支払額を使用している。

   2 第133期より、一部の在外会社において、IAS第19号「従業員給付」(2011年6月16日改訂)を適用している。当該会計方針の変更は遡及適用されるため、第132期の関連するキャッシュ・フロー関連指標について遡及適用後の数値を記載している。

 

(2)経営成績

当社グループは、中期経営課題“プロジェクトAP-G 2016”に基づき、「成長分野での事業拡大」及び「成長国・地域での事業拡大」を要とした成長戦略を実行するとともに、トータルコスト競争力の更なる強化に努めた結果、連結業績は前連結会計年度比増収・増益となり、売上高、営業利益、経常利益、当期純利益について、いずれも過去最高を更新した。

「1 業績等の概要(1)業績」に記載のとおり、売上高は、繊維事業、炭素繊維複合材料事業を中心に増収となり、前連結会計年度比1,730億円、9.4%増収の2兆107億円となった。営業利益は、炭素繊維複合材料事業、プラスチック・ケミカル事業を中心に増益となり、前連結会計年度比182億円、17.3%増益の1,235億円となった。

営業利益の前連結会計年度比増減要因を分析すると、数量増などによる増益546億円があった一方で、営業費増加などによる減益△364億円があり、差し引き182億円の増益となった。

営業外損益は、支払利息が増加したことなどにより、前連結会計年度比3億円の減益となったため、経常利益は前連結会計年度比179億円、16.2%増益の1,286億円となった。

特別利益は受取保険金が減少したことを主因に前連結会計年度比61億円減の18億円、特別損失は減損損失が減少したことを主因に前連結会計年度比49億円減の159億円となった。従って、ネット特別損益は前連結会計年度比12億円の減益となったため、当連結会計年度の税金等調整前当期純利益は、前連結会計年度比167億円増益の1,145億円となった。

当期純利益は、前連結会計年度比114億円、19.1%増益の710億円となった。自己資本当期純利益率は、7.7%と前連結会計年度比0.2ポイント改善した。