第2 【事業の状況】

 

1 【業績等の概要】

(1) 業績

当連結会計年度の世界経済は、欧州経済は持ち直しの動きがあるものの依然停滞し、中国をはじめとする新興諸国では経済成長が鈍化したが、米国経済については、雇用の改善が進む中で個人消費が堅調に推移するなど緩やかな景気拡大が続いた。国内経済については、個人消費や公共投資が底堅く推移したほか、民間設備投資にも持ち直しの動きが見られ、雇用情勢も着実に改善するなど景気は緩やかに回復した。
 このような事業環境の中で、当社グループは、中期経営課題“プロジェクトAP-G 2013”に基づき、「成長分野及び成長地域における事業拡大」を要とした成長戦略を実行するとともに、トータルコスト競争力の更なる強化に努めた。
 以上の結果、当社グループの連結業績は、売上高は前連結会計年度比15.4%増の1兆8,378億円、営業利益は同26.1%増の1,053億円、経常利益は同25.4%増の1,106億円、当期純利益は同23.0%増の596億円となった。

 

セグメント別の業績は、次のとおりである。

 

(繊維事業)

繊維事業は、国内の衣料用途では、機能性衣料用途向けの販売が堅調に推移したが、その他一般衣料用途の販売は回復の兆しはあるものの弱含みで推移した。一方、円高修正の影響もあり輸出は回復基調となった。産業用途は、自動車関連用途向けをはじめ需要が回復基調で推移した。
 海外では、欧州の景気不振や中国内需の伸び悩みなど、依然厳しい状況が続いたが、東南アジアや中国のテキスタイル子会社が拡販と高付加価値品へのシフトを進めた。なお、2011年10月に発生したタイ洪水の影響が前連結会計年度には残っていたが、当連結会計年度は生産・販売ともに回復し業績の改善に寄与した。
 以上の結果、繊維事業全体では、売上高は前連結会計年度比19.5%増の7,555億円、営業利益は同22.4%増の529億円となった。

主要な製品の生産規模は、ナイロン糸が前連結会計年度比13.1%増の約469億円(販売価格ベース)、ポリエステル糸が同15.7%増の約555億円(販売価格ベース)、ポリエステルステープルが同15.1%増の約296億円(販売価格ベース)となった。

 

(プラスチック・ケミカル事業)

プラスチック・ケミカル事業は、樹脂事業では、国内の自動車関連用途向け販売は堅調に推移したが、電機や一般産業用途向けは弱含みで推移した。また、円高修正に伴う原料価格上昇の影響を受けた。海外では、北米や中国、東南アジアで自動車関連用途向けを中心に販売が拡大した。
 フィルム事業では、国内ではハイブリッドカー用コンデンサー向けなどの販売は堅調に推移したが、全般的には国内外ともに需要は低調に推移し、価格競争が継続した。
 また、市況回復と海外事業の好調を背景に、商事子会社が取扱高を拡大した。
 以上の結果、プラスチック・ケミカル事業全体では、売上高は前連結会計年度比18.9%増の4,705億円、営業利益は同1.6%減の180億円となった。

主要な製品の生産規模は、ABS樹脂が前連結会計年度比20.1%増の約789億円(販売価格ベース)、ナイロン樹脂とPBT樹脂が同8.4%増の約254億円(販売価格ベース)、ポリエステルフィルム ルミラー®が同15.5%増の約700億円(販売価格ベース)となった。

 

 

(情報通信材料・機器事業)

情報通信材料・機器事業は、スマートフォンやタブレット端末など中・小型ディスプレイ向け製品の販売が、下期に入り一部で最終製品の生産調整の影響を受けたが、概ね堅調に推移した。大型液晶パネル向けフィルム及びフィルム加工品は、上期は堅調に推移したが、下期には薄型テレビの需要低迷の影響を受けた。
 以上の結果、情報通信材料・機器事業全体では、売上高は前連結会計年度比3.4%増の2,457億円、営業利益は同7.1%増の246億円となった。

主要な製品の生産規模は、ポリエステルフィルム ルミラー®が前連結会計年度比6.4%増の約635億円(販売価格ベース)となった。

 

(炭素繊維複合材料事業)

炭素繊維複合材料事業は、航空機需要の拡大や圧縮天然ガスタンクなど環境・エネルギー関連需要の拡大が進む中で、航空・宇宙用途や一般産業用途向けに炭素繊維及び中間加工品(プリプレグ)の販売が堅調に推移した。また、成形品事業ではノートブック型パソコン用に使用されている、高い強度を持ち軽量化を実現できる炭素繊維強化プラスチック製筐体の販売が拡大した。
 以上の結果、炭素繊維複合材料事業全体では、売上高は前連結会計年度比46.0%増の1,133億円、営業利益は同131.9%増の169億円となった。

炭素繊維複合材料の生産規模は前連結会計年度比42.4%増の約1,079億円(販売価格ベース)となった。

 

(環境・エンジニアリング事業)

環境・エンジニアリング事業は、水処理膜事業では、世界経済の先行きに不透明感が残る中で市場は本格回復には至っていないものの、当社では、中東向け逆浸透膜などの出荷が堅調に推移した。国内子会社では、エンジニアリング子会社のプラント工事の進捗が低調に推移した。
 以上の結果、環境・エンジニアリング事業全体では、売上高は前連結会計年度比1.0%増の1,802億円、営業利益は同143.4%増の64億円となった。

 

(ライフサイエンス事業)

ライフサイエンス事業は、医薬品では、血液透析患者向けの経口そう痒症改善剤レミッチ®*の販売が堅調に推移したが、その他の医薬品は競合激化の影響を受けたほか、一部ライセンス料収入も減少した。医療機器では、PMMA膜人工腎臓フィルトライザー®、ポリスルホン膜人工腎臓トレスルホン®の販売が、国内向けに加え輸出も堅調に推移した。
 以上の結果、ライフサイエンス事業全体では、売上高は前連結会計年度比2.8%増の582億円、営業利益は同24.8%減の56億円となった。

医療機器の生産規模は前連結会計年度比4.8%増の約190億円(販売価格ベース)となった。

 

*レミッチ®は鳥居薬品㈱の登録商標である。

 

(その他)

売上高は前連結会計年度比1.1%増の143億円、営業利益は同27.6%増の20億円となった。

 

(2) キャッシュ・フロー

当連結会計年度における連結ベースの現金及び現金同等物(以下「資金」という。)は、投資活動による資金の減少が営業活動による資金の増加を534億円上回った一方、有利子負債の増加を主因に財務活動による資金の増加が415億円となり、為替換算差額を含めると、当連結会計年度末には前連結会計年度末比54億円(5.1%)増の1,131億円となった。

 

 

(営業活動によるキャッシュ・フロー)

当連結会計年度において営業活動による資金の増加は、前連結会計年度比606億円(60.1%)増の1,615億円となった。これは、税金等調整前当期純利益が978億円(前連結会計年度比199億円増)、減価償却費が787億円(同112億円増)であった一方、たな卸資産の増加額が189億円(同144億円増)、法人税等の支払額が232億円(同22億円増)であったこと等によるものである。

 

(投資活動によるキャッシュ・フロー)

当連結会計年度において投資活動による資金の減少は、前連結会計年度比1,073億円(99.8%)増の2,148億円となった。これは、有形固定資産の取得による支出が1,082億円(前連結会計年度比76億円増)、連結の範囲の変更を伴う子会社株式の取得による支出が914億円(同901億円増)であったこと等によるものである。

 

(財務活動によるキャッシュ・フロー)

当連結会計年度において財務活動による資金の増加は、前連結会計年度比153億円(58.5%)増の415億円となった。これは、長期借入れによる資金の調達が1,501億円(前連結会計年度比686億円増)であった一方、長期借入金の返済による支出が403億円(同35億円減)、社債の償還による支出が600億円(同500億円増)、配当金の支払額が163億円(同0億円増)であったこと等によるものである。

 

2 【生産、受注及び販売の状況】

当社グループ(当社及び連結子会社)の生産・販売品目は広範囲かつ多種多様であり、同種の製品であっても、その形態、単位等は必ずしも一様ではなく、また受注生産形態をとらない製品も多いため、セグメントごとに生産規模及び受注規模を金額あるいは数量で示すことはしていない。

このため生産、受注及び販売の状況については、「1 業績等の概要」における各セグメントの業績に関連付けて示している。

 

3 【対処すべき課題】

当社は、2011年2月に、10年間程度の期間を見据えた長期経営ビジョン“AP-Growth TORAY 2020”と、2011年度から2013年度の3ヵ年を対象期間とする中期経営課題“プロジェクトAP-G 2013”を策定した。

長期経営ビジョン“AP-Growth TORAY 2020”では、グローバルな事業拡大を一層推進するとともに、グリーンイノベーション事業の拡大に注力していくことで、「持続的に事業収益拡大を実現する企業グループ」、「社会の発展と環境の保全・調和に積極的な役割を果たす企業グループ」、そして「全てのステークホルダーにとって高い存在価値のある企業グループ」を目指している。

中期経営課題“プロジェクトAP-G 2013”では、国内外ともに事業環境が大きく変化する中で、成長戦略の実行と体質強化に総合的かつ強力に取り組んだ。また、各事業分野でのグローバルな拡大に向けた投資を推進し、将来の大型新製品・新技術につながる研究開発についても着実に成果を上げることができた。

2014年2月には、2014年度から2016年度の3ヵ年を対象期間とする新たな中期経営課題“プロジェクトAP-G 2016”を策定した。“プロジェクトAP-G 2013”の「攻めの経営戦略」を引き継ぎ、成長戦略と体質強化の取り組みを更に進化させ、投資や研究開発を一層強化して、事業の拡大を図る。

当社グループは、すべての製品の元となる素材には、社会を本質的に変える力があるという信念のもと、常に世界に先駆けた技術革新に挑戦し、最先端の技術や新素材を生み出し事業化することを目指している。そして、企業活動のあらゆる場面で現場力を重視し、徹底的な現状把握と現状分析に基づいて問題を克服していくことで、持続的な成長を図り、企業理念である「わたしたちは新しい価値の創造を通じて社会に貢献します」を具現化していく。

 

 

4 【事業等のリスク】

「第2 事業の状況」、「第5 経理の状況」等での記載事項に関して、投資家の判断に重要な影響を及ぼす可能性のある主要なリスクは、以下のとおりである。当社グループは、日常的にこれら潜在するリスクからの回避、又はその影響の低減に努めるとともに、不測の事態が発生した場合には迅速な対応と的確な情報開示を実施しうる体制を構築すべく努めている。なお、以下は当社グループに関する全てのリスクを網羅したものではなく、事業等のリスクはこれらに限定されるものではない。また、文中の将来に関する事項は、有価証券報告書提出日(2014年6月25日)現在において当社グループが判断したものである。

 

(1) 国内外の需要、製品市況の動向等に関わるリスク

当社グループは基礎素材製品を広範な産業に供給しており、世界的あるいは地域的な需給環境の変動や素材代替の進行、取引先の購買方針の変更等により当社グループの製品に対する需要が急速に減退する可能性がある。また、当社グループの様々な事業は他企業との厳しい競争状態にあり、新規参入の脅威に曝されているものもあるほか、医薬・医療事業には薬価並びに償還価格改定による価格変動要因がある。当社グループは持続的に競争優位の確保に努めているものの、これら製品の需要が減少あるいは価格が下落した場合、あるいは取引先の与信リスクが顕在化した場合、当社グループの業績及び財務状況が悪影響を被る可能性がある。

 

(2) 原燃料価格の上昇に関わるリスク

当社グループが使用する石油化学原料や燃料は、価格が大きく変動することがあり、これら原燃料の価格上昇分を製品価格に十分に転嫁できない場合、あるいは品種転換による採算の改善が困難な場合、当社グループの業績及び財務状況が悪影響を被る可能性がある。

 

(3) 設備投資、合弁事業・提携・買収等に関わるリスク

当社グループは広範囲にわたる事業領域で設備投資を実施しており、また、第三者との間で様々な合弁事業や戦略的提携、事業買収等を行っている。これら設備投資、合弁事業・提携・買収等の実施にあたっては、事前に収益性や投資回収の可能性について様々な観点から検討を行っているが、必ずしも確実に予期したとおりの成果が得られるという保証があるわけではなく、事業環境の急変などにより、予期せぬ状況変化や所期の事業計画からの大幅な乖離が生じた場合、固定資産の減損損失や持分法投資損失等が発生し、当社グループの業績及び財務状況に悪影響を与える可能性がある。

 

(4) 為替相場の変動、金利の変動、有価証券等の価値の変動等に関わるリスク

当社グループの海外事業の現地通貨建て財務諸表の各項目は、円換算時の為替レート変動の影響を受ける。外国通貨建て取引については、為替予約等によりリスクを軽減させる措置を講じているが、予測を超えた為替変動が当社グループの業績及び財務状況に影響を与える可能性がある。
 また、予期せぬ金利水準の急激な変動やその他の金融市場の混乱、当社グループの保有する有価証券あるいは年金資産の価値の変動等が当社グループの業績及び財務状況に影響を与える可能性がある。

 

(5) 将来予測等の前提条件の変動に伴う退職給付債務や繰延税金資産に関わるリスク

当社の単独及び連結財務諸表は、将来に関する一定の前提を置いた年金数理計算に基づいて退職給付債務を計上しており、また、将来年度の課税所得の見積額に基づき回収可能性を判断したうえで繰延税金資産を計上しているが、年金数理計算に使用する前提条件に変動が生じた場合、あるいは将来の課税所得の見積額に変動が生じた場合、当社グループの業績及び財務状況に影響を与える可能性がある。

 

 

(6) 海外での事業活動に関わるリスク

当社グループは、アジア・欧州・米国をはじめ海外で広く事業を展開しているが、各地域において以下のようなリスクがあり、これらの事象が発生した場合、当社グループの業績及び財務状況が悪影響を被る可能性がある。

①不利な影響を及ぼす租税制度の変更等の予期しない諸規制の設定又は改廃

②予期しない不利な経済的又は政治的要因の発生

③テロ・紛争等による社会的混乱 など

 

(7) 製造物責任に関わるリスク

当社グループは、世界最高水準の品質を追求しているが、予期し得ない重大な品質問題が発生する可能性は皆無ではなく、そうした重大事態が発生した場合、当社グループの業績及び財務状況が悪影響を被る可能性がある。

 

(8) 訴訟に関わるリスク

当社グループが広範な事業活動を展開する中で、知的財産権、製造物責任、環境、労務等、様々な訴訟の対象となるリスクがある。重大な訴訟が提起された場合、当社グループの業績及び財務状況が悪影響を被る可能性がある。

 

(9) 法規制、租税、競争政策、内部統制に関わるリスク

当社グループは、事業活動を行っている各国及び地域において、環境、商取引、労務、知的財産権、租税、為替等の各種関係法令、投資に関する許認可や輸出入規制、独占禁止法に基づく競争政策等の適用を受けている。当社グループは内部統制システムの整備・維持を図り各種法令等の遵守に努めているが、新たな環境規制や環境税の導入、法人税率の変動等これらの法令の改変があった場合や各種法令に違反したと判定された場合、公正取引委員会による行政処分を受けた場合や税務当局から更正通知を受領した場合、あるいは従業員による不正行為があった場合や財務報告に係る内部統制の有効性が維持できなかった場合、当社グループの業績及び財務状況が悪影響を被る可能性がある。

 

(10) 自然災害・事故災害に関わるリスク

当社グループは、「安全・防災・環境保全」をあらゆる経営課題に優先し、生産活動の中断による損害を最小限に抑えるため、製造設備の定期的な防災点検及び設備保守、また安全活動を推進しているが、突発的に発生する災害や天災、不慮の事故等で製造設備等が損害を受けた場合や原材料等の供給不足が生じた場合、電力・物流をはじめとする社会インフラの機能が低下した場合等には、当社グループの業績及び財務状況が悪影響を被る可能性がある。

 

 

5 【経営上の重要な契約等】

 

契約会社名

相手方の名称

国名

契約の内容

内容

契約期間

東レ株式会社

E.I.DuPont de
Nemours and Co.

アメリカ

ポリイミドフィルム等を製造・販売する合弁会社東レ・デュポン㈱の設立及び運営

1963年2月22日から
合弁会社の存続する期間

東レ株式会社

Dow Corning Co.

アメリカ

シリコーン製品等を製造・販売する合弁会社東レ・ダウコーニング㈱の運営

2005年4月19日から
合弁会社の存続する期間

東レ株式会社

Invista, Inc.

アメリカ

ポリウレタン弾性繊維を製造・販売する合弁会社東レ・オペロンテックス㈱の運営

2003年5月1日から
合弁会社の存続する期間

Toray Composites
(America), Inc.

Boeing Co.

アメリカ

炭素繊維複合材料の供給

2005年11月22日から
2021年12月31日まで
(5年間のオプションを含む)

 

 

(Zoltek Companies, Inc.の買収)

当社は、2013年9月27日にアメリカのラージトウ炭素繊維メーカーZoltek Companies, Inc.との間で、同社の全株式を取得する旨の契約を締結し、2014年2月28日に株式取得に関する全ての手続きを完了した。詳細は「第5 経理の状況 1 (1)連結財務諸表 注記事項(企業結合等関係)」に記載している。

  

(Woongjin Chemical Co., Ltd.の買収)

当社の連結子会社であるToray Advanced Materials Korea Inc.は、韓国のWoongjin Chemical Co., Ltd.の株式56.21%を取得する旨の契約を、2013年11月6日に同社の親会社であるWoongjin Holdings Co., Ltd.ほかと締結し、2014年2月28日に株式取得に関する全ての手続きを完了した。詳細は「第5 経理の状況 1 (1)連結財務諸表 注記事項(企業結合等関係)」に記載している。 

 

6 【研究開発活動】

当社グループ(当社及び連結子会社)の研究・技術開発は、有機合成化学、高分子化学、ナノテクノロジー、バイオテクノロジーという当社が培ってきたコア技術をベースに、基幹事業である繊維、プラスチック・ケミカル事業の安定収益基盤強化・収益拡大を推進するとともに、成長する重点4領域(①環境・水・エネルギー、②情報・通信・エレクトロニクス、③自動車・航空機、④ライフサイエンス)に絶え間なく先端材料を供給する役割を担っている。また、地球温暖化防止や環境負荷低減に対して、当社グループの総合力を発揮してソリューションを提供する新たな切り口で、さらなる成長を推進していく。
 2014年2月に策定した中期経営課題“プロジェクトAP-G 2016”では、「グリーンイノベーション」と「ライフイノベーション」を重点分野に、革新的新素材・新技術の創出によって当社の持続的発展を支えるとともに、知的財産戦略により参入障壁を構築し、技術の優位性を堅持していく。

 

当連結会計年度のセグメント別の研究・技術開発の概要は次のとおりである。

 

(1) 繊維事業

基幹事業としての安定収益基盤の強化と収益拡大に向け、極限技術追求による高機能製品や繊維先端材料の創出・拡大に主眼を置いた研究・技術開発を推進している。その成果として、繊維の断面形態をナノメートルオーダーで任意に制御することで、様々な原料樹脂を自在に複合させることができる革新的な合成繊維製造技術の開発に成功した。本技術を用いて作られる複合繊維の断面形態は、ナノメートルサイズでデザインされ様々な用途への展開の可能性がある。また、環境関連製品として、植物由来のエチレングリコールを原料とした植物度約30%のポリエステル繊維を用いて学販衣料業界初の体育着を開発、加えてグリーン購入法基本方針の環境物品基準に適合した作業服を世界で初めて展開する。そのほか、単糸繊度を世界最高水準の0.2デシテックスレベルまで細くした高異形(くさび形)断面のナイロン超極細繊維を採用し、きめ細やかでサラリとした肌になじむ触感、ソフトでありながら適度なコシのある風合いを実現したファッション用テキスタイル ミラニー™を開発した。

(2) プラスチック・ケミカル事業

基幹事業として安定収益基盤の強化と収益拡大、そして持続可能な循環型社会の発展に主眼を置いた研究・技術開発に取り組んでいる。その成果として、アルミダイキャストよりも45%軽量でありながら同等の引張強度を有する、射出成形可能な炭素繊維強化ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂の開発に成功した。また、再生可能化学品プロセス技術のリーディング企業であるGenomatica社と共同で、Genomatica社製1,4-ブタンジオール(バイオBDO)を用いた部分バイオマス原料由来ポリブチレンテレフタレート(部分バイオPBT)の中規模設備での試作重合に成功した。商業規模での量産に目処を得たことから上市に向けてプレマーケティングを開始した。

(3) 情報通信材料・機器事業

戦略的拡大事業として研究・技術開発に取り組んでいる。その成果として、次世代パワーエレクトロニクス(インバータなどの電力機器)に用いられるシリコンカーバイド半導体デバイス製造においてイオン注入工程を大幅に簡略化できる感光性耐熱レジストを開発した。また、樹脂設計技術の高度化により、スマートフォンなど携帯用電子機器に搭載される電子部品のさらなる小型化・高密度実装を実現する封止(パッケージング)用材料として、新たに「感光性ポリイミド接着フィルム」を開発した。また、半導体純度を大幅に高めた単層CNT(Carbon Nano-Tube)と当社が独自開発した半導体ポリマーを複合化することにより、単層CNTの高い半導体特性を十分に引き出すことに成功し、単層CNT薄膜トランジスタにおいて、塗布型TFTとしては世界最高レベルとなる移動度(13cm2/Vs)を達成した。そのほか、タッチパネル配線用の感光性導電ペースト「レイブリッド」では配線幅(ライン:L)と間隔(スペース:S)がそれぞれ20μmと、従来の50μmより更に微細配線形成が可能となる新品種を開発・上市した。

(4) 炭素繊維複合材料事業

当社の代表的ナンバーワン事業であり、戦略的拡大事業としてグリーンイノベーション事業拡大、アジア・新興国事業拡大のための研究・技術開発に取り組んでいる。炭素繊維複合材料事業の自動車分野におけるグローバルな戦略的拡大を図るため、米国のCFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics:炭素繊維強化プラスチック)製自動車部品製造販売会社であるPlasan Carbon Composites, Incの株式の20%を取得した。これにより、米国自動車メーカーへの販売チャネルを確保するとともに、北米におけるCFRP製自動車部品の生産・開発拠点を確立した。今後、自動車用途における炭素繊維の市場創造に向けて、炭素繊維から中間基材、成形品までの一貫した強固な垂直統合型のサプライチェーンを、日本・アジア・欧州・北米とグローバルに強化・拡充する。また、これまで技術難度が高いとされた高強度と高弾性率化の両立を実現したトレカ®「T1100G」及び同炭素繊維を使用した高性能プリプレグ(炭素繊維樹脂含浸シート)を開発した。そのほか、「航空機用炭素繊維複合材料の開発」について、財団法人大河内記念会より「第60回(平成25年度)大河内記念生産特賞」を受賞した。

(5) 環境・エンジニアリング事業

情報通信材料・機器、炭素繊維複合材料に続く次の収益拡大の柱とするために、重点育成・拡大事業として研究・技術開発に取り組んでいる。水処理分野では、高い透水性能と耐久性を併せ持つ「超低圧高耐久性逆浸透(RO)膜」を開発した。本製品は、RO膜表面に細孔(水分子を通しナトリウムイオン等を通さない微細な穴)を形成する技術を深化させ、優れた物質除去性能を維持したまま透水性能を高めることによって、低圧運転が可能となり約30%の省エネを達成することができる。アメニティー関連製品では、高い除去性能を有しながらもコンパクトかつデザイン性を兼ね備えた蛇口直結型浄水器「トレビーノ® カセッティ307MX」を開発し、発売を開始した。

(6) ライフサイエンス事業

重点育成・拡大事業として研究・技術開発に取り組んでいる。医薬分野では、血液透析に伴う難治性のそう痒症に対する、世界初の選択的オピオイドκ受容体作動性の経口そう痒症改善薬であるレミッチ®*カプセル2.5μgの開発・上市に成功したことが評価され、「κ型オピオイド受容体作動薬ナルフラフィン塩酸塩」について、平成25年度全国発明表彰「発明賞」を受賞した。

 

*レミッチ®は鳥居薬品㈱の登録商標である。

 

 

上記セグメントに属さない基礎研究、基盤技術開発として、環境関連では、「全ての事業戦略の軸足を地球環境におき、持続可能な低炭素社会の実現に向けて貢献していく」という経営方針の下、革新電池部材、有機薄膜太陽電池の研究・技術開発を推進しており、有機薄膜太陽電池では、高配向性ポリマーの開発により極限の外部量子効率を実現し、単層素子としては世界最高レベルとなる10%超の変換効率を達成した。また、次期中期経営課題“プロジェクトAP-G 2016”において新たに推進する「ライフイノベーション事業拡大」を意識した研究・技術開発力の強化策として、米国ミネソタ州のミネソタ大学Medical Devices Center内及び兵庫県の神戸医療産業都市にライフイノベーション関連の新拠点を設置した。本拠点では、医療機器開発の加速及び東レが開発した先端材料の医療機器への適応拡大を目的に、国内外の医療機関、検査診断施設及び医療機器関連企業との連携を促進する。新事業では、英国ケンブリッジ大学で高感度DNAチップ3D-Gene®が採用され、主にバイオマーカー研究用途で、英国内をはじめ欧州全域への普及を加速しつつある。

 

当連結会計年度の当社グループの研究開発費総額は、555億円(このうち東レ㈱の研究開発費総額は429億円)である。セグメント別には、繊維事業に約8%、プラスチック・ケミカル事業に約14%、情報通信材料・機器事業に約21%、炭素繊維複合材料事業に約6%、環境・エンジニアリング事業に約3%、ライフサイエンス事業に約13%、本社研究・技術開発に約35%の研究開発費を投入した。

当連結会計年度の当社グループの特許出願件数は、国内で1,593件、海外で3,447件、登録された件数は国内で907件、海外で1,211件である。

 

 

7 【財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

(1)財政状態

当連結会計年度末の財政状態は、資産の部は、受取手形及び売掛金や、たな卸資産等が増加した結果、流動資産が前連結会計年度末比1,236億円増加し、固定資産も有形固定資産の増加を主因に同2,641億円増加したことから、資産合計では同3,878億円増加の2兆1,197億円となった。

負債の部は、有利子負債が増加したことを主因に前連結会計年度末比2,218億円増加の1兆1,751億円となった。当連結会計年度末の有利子負債の残高は前連結会計年度末比1,222億円増加の6,542億円となった。

純資産の部は、純利益の計上による利益剰余金の増加や為替換算調整勘定の変動を主因に、純資産合計で前連結会計年度末比1,660億円増加の9,446億円となり、このうち自己資本は8,590億円となった。当連結会計年度末の自己資本比率は、総資産が増加したことから前連結会計年度末比1.3ポイント低下し40.5%、D/Eレシオは同0.03ポイント悪化し0.76となった。

当連結会計年度のキャッシュ・フローの状況は、「1 業績等の概況(2)キャッシュ・フロー」に記載のとおりであり、営業活動によるキャッシュ・フローから投資活動によるキャッシュ・フローを差し引いた当連結会計年度のフリー・キャッシュ・フローは、前連結会計年度比467億円減少し、534億円の資金支出となった。

なお、キャッシュ・フロー関連指標の推移は下記のとおりである。

 

回次

第129期

第130期

第131期

第132期

第133期

決算年月

2010年3月

2011年3月

2012年3月

2013年3月

2014年3月

自己資本比率(%)

30.3

37.8

39.7

41.8

40.5

時価ベースの自己資本比率(%)

49.1

62.9

63.3

59.8

52.4

キャッシュ・フロー対有利子負債比率

3.8

3.8

4.6

5.3

4.1

インタレスト・カバレッジ・
レシオ

17.1

19.7

17.7

18.1

32.5

 

(注)1 時価ベースの自己資本比率:株式時価総額/総資産額

  キャッシュ・フロー対有利子負債比率:有利子負債/営業活動によるキャッシュ・フロー

  インタレスト・カバレッジ・レシオ:営業活動によるキャッシュ・フロー/利払い

  株式時価総額は、期末株価終値×期末発行済株式総数(自己株式控除後)により算出している。

  また、利払いについては、連結キャッシュ・フロー計算書の利息の支払額を使用している。

   2 第133期より、一部の在外会社において、IAS第19号「従業員給付」(2011年6月16日改訂)を適用している。当該会計方針の変更は遡及適用されるため、第132期の関連するキャッシュ・フロー関連指標について遡及適用後の数値を記載している。

 

(2)経営成績

当社グループは、中期経営課題“プロジェクトAP-G 2013”に基づき、「成長分野及び成長地域における事業拡大」を要とした成長戦略を実行するとともに、トータルコスト競争力の更なる強化に努めた結果、連結業績は前連結会計年度比増収・増益となり、売上高、経常利益については、過去最高を更新した。

「1 業績等の概要(1)業績」に記載のとおり、売上高は、全てのセグメントで増収となり、前連結会計年度比2,455億円、15.4%増収の1兆8,378億円となった。営業利益は、繊維事業、炭素繊維複合材料事業を中心に増益となり、前連結会計年度比218億円、26.1%増益の1,053億円となった。

営業利益の前連結会計年度比増減要因を分析すると、数量増などによる増益629億円があった一方で、営業費増加や原燃料価格上昇などによる減益△411億円があり、差し引き218億円の増益となった。

営業外損益は、為替差益が増加したことなどにより、前連結会計年度比6億円の増益となったため、経常利益は前連結会計年度比224億円、25.4%増益の1,106億円となった。

特別利益は受取保険金が増加したことを主因に前連結会計年度比66億円増の79億円、特別損失は減損損失が増加したことを主因に前連結会計年度比90億円増の208億円となった。従って、ネット特別損益は前連結会計年度比25億円の減益となったため、当連結会計年度の税金等調整前当期純利益は、前連結会計年度比199億円増益の978億円となった。

当期純利益は、前連結会計年度比111億円、23.0%増益の596億円となった。自己資本当期純利益率は、7.5%と前連結会計年度比0.4ポイント改善した。